理化学研究所(理研)は7月21日、生体内でみられる化学反応系の酵素変化に対する応答の範囲がネットワークの局所的な形だけから決まるという新原理「限局則」を発見したと発表した。
同成果は、理研 望月理論生物学研究室 岡田崇特別研究員、望月敦史主任研究員らの研究グループによるもので、7月20日付の米国科学誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。
生体内で起こる多数の化学反応は、連鎖的につながりネットワークを形成している。このシステム全体のダイナミクスから細胞の生理機能が生まれ、酵素の量や活性が変化することで、生理機能の調節が行われると考えられている。この仕組みを理解するためにこれまで、各酵素の量や活性に撹乱を与え、化学物質の濃度変化を測定する摂動実験が行われてきたが、ネットワークから化学反応系を合理的に理解することはほとんどできていなかった。
同研究チームは今回、化学反応ネットワークの構造から、酵素の量や活性が変化したときの化学反応系の応答を定性的に予測する数理理論を構築した。この結果、酵素変化に対する化学反応系の応答の範囲が、ネットワークの局所的な形だけから決まることを数学的に証明。ネットワーク中の部分構造に含まれる、分子、反応、ループ構造の数が、「(分子種の数)-(反応の数)+(ループ構造の数)=0」という算術式を満たしていると、その部分構造は「限局構造」となり、構造内の反応に与えられた変動の影響が内部のみに留まり、外部の濃度や反応には影響を与えないことを明らかにした。
同研究グループは、以上のネットワークの部分構造だけで化学反応系の振る舞いを決定できる「限局則」について、生命システムを解明するうえで有力な手段になるとしている。