九州大学(九大)は7月14日、黄砂時の観測結果の解析から、黄砂表面を覆う形で越境輸送されてくる硝酸塩の様子を明らかにしたと発表した。

同成果は、九州大学 応用力学研究所 鵜野伊津志教授らの研究グループによるもので、7月10日発行の国内科学誌「大気環境学会誌第51巻第4号」に掲載されるとともに、既刊の2編の学術雑誌に掲載された。

化石燃料などの燃焼で発生する窒素酸化物NOxは大気中で酸化され、硝酸ガスHNO3からエアロゾルとして硝酸塩(NO3-)となる。硝酸塩はPM2.5微粒子の構成要素のひとつで呼吸器疾患などの健康被害の一因となり、黄砂の飛来時に高濃度になることが知られている。

同研究グループは今回、2014年5月末の黄砂観測期間に福岡市近郊で1時間、高精度で微小(粒径2.5µm以下の粒子)と粗大(粒径2.5~10µmの粒子)粒径のNO3-と、0.5~10µmのほかの粒子数濃度の観測を1週間連続で実施。黄砂時の微小・粗大粒径のNO3-の濃度と時間変化の観測およびモデル解析に成功した。

この結果、黄砂に同期して粗大NO3-の増加が顕著であることが明らかになった。これは黄砂粒子の表面に硝酸ガスHNO3-が取り込まれ、主に硝酸カルシウムCa(NO3)2として運ばれるためであると考えられる。

また、黄砂への硝酸ガスの取り込み過程を含む化学輸送モデル解析から、福岡では黄砂に取り込まれた硝酸塩の70~80%が北京・華北平原から上海にかけての大規模な大気汚染発生域の窒素酸化物NOxに起因し、日本国内発生の寄与は11%以下であることがわかった。これは黄砂表面を覆う形で中国起源の窒素酸化物が越境していることを意味している。

鵜野教授は、「継続している観測からは、硝酸・硫酸粒子濃度をとらえることが可能で、粒子を介した酸性ガスの取り込みや物質収支の研究を推進していきたいと考えています」とコメントしている。

左:モデル計算された黄砂(等値線)と黄砂に取り込まれた全硝酸塩濃度の水平分布 右:福岡での黄砂に取り込まれた微小(上段)と粗大(下段)の硝酸塩の日変化とその発生域寄与(色分けは各発生源の寄与。北京・華北平原は黄色、上海周辺は緑色で表されている)