広島大学らは7月13日、DNA増幅用の卓上型クリーンルームを開発したと発表した。
同成果は、広島大学 高橋宏和研究員、岡村好子准教授らの研究グループによるもので、7月12日付の米国科学誌「BioTechniques」オンライン版に掲載された。
従来、DNA増幅を行う場合には、外来DNAの混入(コンタミネーション)を防止するために、主に無菌操作用のクリーンベンチが使用されていたが、外来DNAの混入を完全に防ぐことは難しく、1細胞レベルの極微量のDNA、特に全ゲノムを増幅する場合には大きな問題となっている。
一般的なクリーンベンチ(ISO-5環境)では、主に粒径0.1µmの微粒子が2.0~3.5万個/m3存在している。粒径はウイルスの大きさに相当し、この微粒子のうちおよそ100~1000個がウイルス様粒子と推定されており、同研究グループは、これをコンタミネーションの主な原因と予想していた。しかし、クリーンベンチで調製した試料に混入したDNAから増幅されたDNAの配列を決定したところ、ヒト配列の検出頻度が高いほか、微生物由来のDNAが確認された。
0.5µm以上の浮遊微粒子がほとんど存在していないISO-5環境では、およそ10µmのヒト細胞が空気中を浮遊しているとは考えにくく、死細胞から遊離した浮遊DNAを含む0.1µm粒子がコンタミネーションの主原因であると推測した同研究グループは、主に半導体などの研究用に用いられる国際標準規格ISO-1の清浄度(全微粒子数が10個/m3以下)の空間を形成する既存のクリーンシステムをベースに、卓上型クリーンルームを開発した。
開発のベースとなったシステムは、整流された気流によって浮遊微粒子をクリーンエリア外に押し出して排出するというもので、空気清浄度が低レベルのクリーンルーム内に設置することが前提になっているために、周囲が囲われていなかった。今回の卓上型クリーンルームは、同システム内の清浄エリアを覆うフードを設置した形となる。
さらに同研究グループは、同卓上型クリーンルームシステムで試薬調製した場合と、一般的なクリーンベンチで調製した場合で、同一の試薬を用いた全ゲノム増幅へのコンタミネーションを比較し、ISO-5でのみコンタミネーションを確認。粒子経0.5µm未満の浮遊微粒子中にDNAが含まれていることを明らかにしている。
一方で、同卓上型クリーンルームを用いて全ゲノム増幅実験を繰り返し行うと、実験回数の増加とともに、クリーンルーム内はISO-1を維持しているにもかかわらず、コンタミネーションの頻度が上昇した。これについては、実験中の気流との摩擦によってプラスチック製実験器具の表面に静電気が発生し、実験が終了してシステムを停止したときに流入してくる空気に含まれる微粒子が、その静電気によって付着するためであるとしている。なお同問題は、装着したフード内面の天井に除電器を設置し、実験中に発生する静電気を除去することで解消できることが確認されている。
同卓上型クリーンルームは、興研から国内向けに販売開始されている。