米Cypress Semiconductorは2016年4月28日、米BroadcomよりWireless IoT Business(ワイヤレスIoT事業)をまるごと、5億5000万ドルの現金で買収することを発表したが、7月5日にこの買収が完了した。これに伴い、今回の買収に関しての説明を日本サイプレスが行ったので、その内容をご紹介する。

今回の買収は現金5億5000万ドルという結構な金額の支出ではあるが、その一方でこの買収によって年あたりの売り上げが1億8900万ドル増加しており、しかもCypressの手薄であったワイヤレス部門のポートフォリオも大幅に強化できる(加えて言えば、従来のBroadcomの顧客もそのまま獲得できる)ということもあって、これを非常にポジティブに捉えている(Photo01)。

Photo01:今回買収した事業は、年率17%もの伸びを示している有益な事業、というのが同社の認識である

この新しく獲得した事業と同社の従来の製品ラインアップの組み合わせを示したのがこちら(Photo02)である。Cypressは元々有していたPSoCをはじめとするプログラマブルSoCと旧Spansionの汎用MCU、それとDRAM以外のほぼすべてのメモリをカバーする製品ラインアップとなっている、コネクティビティに関してはUSBと一部のBluetooth関連のみであった。一方BroadcomのワイヤレスIoT事業はWi-Fi/Bluetoothのコンボチップや5G Wi-Fi関連、ZigBee、さらにWICEDなどさまざまなワイヤレスコネリティビティを提供してくれるものとなる。これにより、IoTのエッジノードに必要となる要素のうち、センサ以外をほぼワンストップで提供できるようになる、という訳だ。また買収による製品ラインアップの重複がほとんど無い点も大きな魅力だとしている。

Photo02:Bluetoothに関しては一部製品(たとえばPRoC)などと重複があるが、「確かにBLEでは一部重複があるが、元々CypressはBluetooth Classicに関しては製品が無かったので、これを補完することが可能になった」(日本サイプレスの長谷川夕也社長)との事

Broadcomといえば、これまでWICEDに力を入れて製品展開を行ってきたが、今回CypressではこのWICEDをもまるまる買収すると共に、引き続き従来と変わらない形でサポートを提供してゆくとしている(Photo03)。すでにWICEDのWebサイトはCypressに移行しており、WICED CommunityもCypress傘下に切り替わっている。今回の買収に伴い、Broadcomで開発に携わっていたおよそ450名のエンジニアもCypressに移籍したという話であった。

Photo03:ロゴに関しては「Broadcomの赤からCypressの青に変えた」そうだが、後は開発者を含めてすべて同じままで継続するとしている

ちょっと目新しい話としては、今回のワイヤレスIoTの中には、自動車関連製品も含まれている。元々Broadcomは2011年ころから車載向けイーサネットをBroadR-Reachという名称で強力に推進しており(Photo04)、このBroadR-Reachそのものは引き続きBroadcomに残るのだが、これに関連してさまざまな車載用のサブシステムのうちWirelessを利用するものに関しては、今回の買収でCypressが引き受けることになった。

Photo04:これはBroadcomが2011年に開催した説明会からの資料。当時はまずPHYとSwitchを提供する、という形だった

Broadcomもまた自動車向けの販売を強化したいと願っているメーカーでありつつも、これまでは自動車向けの販路が乏しい(それがゆえにBroadR-Reachで切り込もうと努力してきた)事もあり、こうした自動車向けのワイヤレス機器もあまり芳しい売り上げは立っていなかった。ところがCypressはすでに自動車向けに一定のシェアを持つメーカーであるため、今後は相乗効果が期待できるとしている(Photo05)。

Photo05:Cypressそのものは元々は自動車関連シェアはほとんど皆無であったが、同社が吸収合併したSpansionはNOR Flashで自動車向けに高いシェアを持っていた上、旧富士通のMCU部門の買収によりラインアップを拡充した。とは言え昨今はEVやADASの急速な盛り上がりのお陰で、これらの関連製品をラインアップしているメーカーの売り上げが急増した結果、相対的に同社のポジションは低めではある

結果として買収により、Cypressはさらに幅広い製品ラインアップを提供できるようになった事になる(Photo06)。ちなみにこうした新しい製品技術を手にした場合、長期的には当然相乗効果を狙う事になるが、短期的にはまず既存のBroadcomの顧客に対する製品供給や技術サポートをしっかりと行うことで、顧客のビジネスにインパクトを与えないようにするのが第一義であるという説明がなされた。

Photo06:BroadcomではこのワイヤレスIoT関連では40nmプロセスを利用した製品がすでに販売中で、28nmプロセスを利用した製品の開発も始まっており、これらはCypressの元で引き続き継続して行ってゆくとの事であった