BIが世に登場して約10年、いまだに普及が進まないといわれるが、SAPによると「一気に普及する」という。同社は今年5月に開催した年次イベント「SAPPHIRE NOW 2016」で、BIを含むアナリティクス分野を「SAP BusinessObjects」として刷新すると発表した。今後は予測分析、機械学習やAIの取り込みも進めていくという。
今回SAPPHIREの会場で、アナリティクス&ビックデータ担当バイスプレジデントのByron Banks氏に話を聞いた。
--今年のSAPPHIRE NOWのメッセージは?--
Banks氏: これまでの"Run Simple"から、"Live Business"に変わりました。これは、顧客のビジネスのトランスフォーメーションを支援する継続的な取り組みに基づくもので、過去に起こったことではなく、リアルタイムでビジネスと将来を予測できるシステムを提供していく、というメッセージになります。
コンシューマーがデジタルストアを訪問した時、Facebookで何をしているのか、何に関心があるのかなどをベースにオススメの商品を提供できます。コンシューマーの興味がないものは表示しないので、時間を無駄にすることはありません。
今、Uberがタクシー業界や運輸業を変えていますが、既存のビジネスモデルを破壊しているのはUberだけではありません。われわれは、ある顧客に対し、予測分析機能を用いて製品改善をデザインレベルで行いました。その会社はこれを拡大して、自社の業績フォーキャストにも利用し、四半期の結果を待つことなくコスト削減したり、製品の価格を変えたりするなどの対策を打ち、業績アップを実現しています。
われわれは、ライブのビジネスを実践する企業を"デジタルエンタープライズ"と呼んでいます。企業は、「Digital Boardroom」(SAPが2015年に発表したソリューション。経営に必要な各種の指標を一元的に表示する)を使って、さまざまな情報を見たり、シナリオを走らせたりすることで、自社のビジネスを総合的に把握できます。数年前とは成功を決定する要素が変わっています。タクシー市場が変わるとは思いもしなかったように、さまざまな業界で今後崩壊が進むでしょう。
--アナリティクス分野のブランドを「BusinessObjects」で統一すると発表しました。その背景と新しいポートフォリオについて教えてください--
Banks氏: SAPはアナリティクス分野で最大のベンダーです。われわれは買収と社内開発により製品ポートフォリオを拡充し、顧客の数は6万4000社を超えています。BusinessObjectsのほか、Sybase、Roambiなどの企業を買収しました。これらの企業によるすぐれたソリューションを持ちながら、ポートフォリオが幅広名称が統一されておらず、顧客の混乱を招いていました。今後は、「BusinessObjects=アナリティクス」と理解してもらえるようにブランディングしていきます。
製品面では、統合して顧客がすべての機能を1つのパッケージで入手できるようすると同時に、顧客にポートフォリオの内部を簡単にわかるようにしました。
製品は「BusinessObjects Cloud」「BusinessObjects Enterprise」と大きく2つに分かれます。
BusinessObjects Cloudは「HANA Cloud Platform(HCP)」で動くSaaSで、すべてのアナリティクス機能が1つのソリューションに入っています。BI、予測分析、プランニング、さらにはモバイル端末で分析機能をビジュアルに操作できるRoambiも含まれます。Roambiはさらに製品統合を進める計画です。Digital BoardroomはBusinessObjects Cloudをベースとし、S/4 HANAと接続してさまざまなデータをプルしています。
BusinessObjects Enterpriseはオンプレミス型でプレミアム、プロフェッショナル、スタンダードの3種類があります。プレミアムにはBI、予測分析、SAP HANA Voraなどが含まれます。
--「SAP HANA Vora」はHadoop上のデータをインメモリで分析することを実現するソフトウェアですが、どのような問題を解決するのでしょうか?--
Banks氏: 今、IoTが注目を集めていますが、たくさんのデバイスやセンサーが利用されています。例えば、航空機はたくさんのセンサーを備えており、データを次々と生成しています。また、機材は10年以上利用されていることが多く、記録が義務づけられています。こうした状況の下、航空会社が抱えるデータは膨大な量になりますが、これらすべてをHANA上に保存することは現実的ではありません。
そこで、HANA Voraを利用することで、ホットデータ、ウォームデータ、コールドデータといったように、データの利用頻度に応じた使い分けが容易になります。例えば、オペレーションに関連した情報が最も知りたい情報であれば、S/4 HANAに入れて高速分析し、異常が発生したら交換のための部品を取り寄せたり、生産ラインのスピードを遅くしたりするといった調整が可能です。しかし、製品設計の改善のためにデータを分析するという場合、高速処理は必要ありません。
また、HANA Voraは汎用的なハードウェアを利用するので拡張性にすぐれており、分散コンピューティングを活用できます。HANAのように高速なレスポンスは得られませんが、数時間、数日待ってもよいというデータの分析に向いています。
このようにHANA VoraとHANAを組み合わせることで、ほぼ無限の量のデータを保存して、双方向でデータを動かして最適な技術を用いて分析ができるのです。