東京大学(東大)は6月9日、スタート合図から運動開始までの時間のばらつき、すなわち反応の速さを、運動を開始する前の脳活動から予測することに成功したと発表した。
同成果は、東京大学大学院 人文社会系研究科 大畑龍学術振興会特別研究員、今水寛教授(ATR認知機構研究所客員所長)、北海道大学大学院 文学研究科 小川健二准教授らの研究グループによるもので、6月2日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
スタート合図に対する反応の速度には、たとえ同じ運動を繰り返していたとしても、ばらつきが生じていることが知られている。これは、末梢神経と筋肉との接合部で生じる運動中の神経活動が原因であると考えられてきたが、近年、サルを用いた研究で、運動を準備している段階の脳活動が、ばらつきを生み出す原因のひとつであるのではないかという説が示唆されるようになってきた。
今回、研究グループは、人の脳活動をミリ秒単位で計測できる脳磁図(Magnetoencephalography:MEG)を利用し、反応時間の早い、遅いを決定する特徴的な脳活動パターンを機械学習のアルゴリズムによって見つけ出すことに成功した。なかでも、運動準備に関わる機能をもつ運動前野の脳活動を利用すると、運動開始の合図が出される約0.5秒前から、その後の反応時間のばらつきを予測することができたという。
以上の結果は、脳の準備状態により、その後の運動結果が大きく左右されてしまうことを示唆しており、同研究グループは、最適な準備状態となるようにトレーニングができれば、ばらつきの少ない運動パフォーマンスをコンスタントに出し続けることや、交通事故などの重大な人的ミスにつながるような反応の遅れを未然に防止することにつながる可能性が期待されると説明している。