理化学研究所(理研)は6月7日、高強度のテラヘルツ光照射により高分子の高次構造を変化させることに成功したと発表した。
同成果は、理化学研究所 光量子工学研究領域 テラヘルツイメージング研究チームの保科宏道上級研究員らの研究グループによるもので、6月7日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
テラヘルツ光は、電波と光の中間の周波数の電磁波であり、その周波数は、分子間に作用する水素結合や、高分子の高次構造の振動運動の周波数に相当する。したがって 、高強度テラヘルツ光の照射は、高分子の高次構造やその運動状態を変化させる可能性があるといえる。
一方で、プラスチック、ゴム、セルロース、タンパク質などの高分子は、同じ分子でも高次構造によって物性や機能が異なることが知られており、高次構造の変化をテラヘルツ光によって誘起できれば、高分子の機能や物性を変える新しい手段となりえる。
同研究グループは今回、テラヘルツ光源に大阪大学産業科学研究所 磯山悟朗教授らが開発した自由電子レーザーを用い、生分解性ポリマーの一種であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)のクロロホルム溶液に、周波数3~8THzのパルス光を照射しながら溶媒を蒸発させ、ポリマー膜を作製した。
この結果、同ポリマー膜はテラヘルツ光照射時と非照射時では、全く異なる結晶構造を持つことがわかった。高分子中に結晶が占める割合で、高分子の融点や硬さなどの物性を決める「結晶化度」は、テラヘルツ光を照射しなかったポリマー膜に比べて、照射したポリマー膜では20%増加していたという。
ポリマーの結晶化度は、通常熱によって変化するが、今回の実験では温度上昇を1℃以下に抑えた条件でテラヘルツ光を照射したため、単なる温度の違いが結晶化をもたらしたとは考えにくく、同研究グループは、テラヘルツ光がポリマー分子や周囲の溶媒分子の運動状態に対して何らかの影響を与え、それが結晶化へとつながったと考えられるとしている。