IoT(Internet of Things)は2016年のIT業界のトレンドの1つだが、ベンダーから関連サービスの提供が進むとともに、国内でも導入事例が続々と出てきている。
日本IBMが5月24日から26日にかけて開催したイベント「IBM Watson Summit 2016」では、日本アイ・ビー・エム Watson IoT 事業部 事業部長の林健一郎氏が「IoTとWatsonがつながる世界を劇的に変革 - IBMのIoT活用技術を最新事例で一挙公開」という講演で、国内外の企業におけるIoTの導入事例を紹介した。
林氏は、IDC Japanが国内IoT市場は2020年までに13.8兆円に達し、組立製造、プロセス製造、運輸/運輸サービス、公共/公益、官公庁の5つの産業分野は2020年までに1兆円以上の市場へ成長すると予測していることを例に出し、今後、国内IoT市場が力強い成長を遂げていくことを示した。
こうした中、日本IBMはIoT関連の事業としては「Smart Manufacturing」「Connected Vehicle」「Personal Healthcare」「Connected Life」「Sports & Entertainment」「In Store Experience」という領域に注力しているという。林氏は、以下のように各領域における導入事例を紹介した。
Smart Manufacturing
三菱電機→次世代スマート・ファクトリー
アドバンテック→スマート・マニュファクチャリングをはじめとするIoTソリューション
IHI→保守支援サービス支援システム
Connected Vehicle(つながるクルマ)
本田技研研究所→F1向けレーシングユニット解析
富士重工業→ステレオカメラを用いた運転支援システム「アイサイト」などのデータを統合管理するシステム、Watson IoTを活用した高度運転支援システムへの取り組み
Personal Healthcare
ミネベア→千葉大学大学院医学研究院および千葉大学医学部附属病院と共に、生体情報モニタリングシステムを開発
テクニコル→心拍パターンを分析して集中力とストレスを可視化するサービス
Connected Life
ソフトバンク→住宅関連の機器と連携を促進
笑農和→水田の水管理サービス
Sports & Entertainment
ドーム→スポーツマネジメントシステム
USA Cycling→リアルタイム分析
In Store Experience(小売業の店舗)
JVCケンウッド→映像分析で異常検出・監視業務無人化
まだ開発段階のソリューションもあるが、IBM一社だけでもIoTに関する取り組みがこれだけ始まっており、国内でもIoT導入の機運が高まっていることがわかる。
ちなみに、三菱電機とIBMはIoT技術を活用した次世代スマートファクトリー実現に向け、技術協力することで合意。今後、ファクトリー・オートメーション(FA)とITシステム間の連携強化に向けた取り組みを推進していく。
展示ブースでは、ミニチュアファクトリーとBluemixによるフィードバック制御のデモが行われていた。部品の検査が、Bluemix上のWatson IoT Platformとデータをやり取りしながら行われ、「OK」または「NG」の結果が音声で返され、OKの場合は次の工場へ送られ、NGの場合はランプが点灯するという仕組みになっていた。
また、ミネベアらによる「ベッドセンサーによる生体情報モニタリングシステム」も展示されていた。同システムは、体にセンサーを付けてモニタリングするのではなく、ベッドのセンサーでベッド上の人の体重・体動・呼吸状態をモニタリングする。そのため、モニタリングの対象者はセンサーを装着する負担から解放される。
ベッドの上の人の重心をモニタリングしているため、寝返りを打ったりすると、モニターの重心の位置も変更される。これにより、万が一ベッドから落ちてしまった場合なども、重心の位置の異変に気づくことで迅速な対応が可能になる。
同システムを基にした医療サービスは、ミネベアの提供する高精度荷重センサーと、日本IBMが提供する機械学習を持つクラウドサービス「IBM Bluemix」の組み合わせで実現する。
林氏はこうした事例を紹介した上で、「IoTにとって重要なことは基幹システムとつなぐこと。それによって初めてサービスとして成立する」と述べた。実際、AirbusでもIoTと基幹業務を連携させて、リアルタイムであらゆるデータを収集・統合することで、ビジネス変革を実現したという。
成果としては、問い合わせ対応にかかる時間が50分から15分に短縮したことで1年間で36億円を削減できたほか、年間50フライトの増加を達成できたことが紹介された。
IoTは、自社のビジネスを変革しつつ、新ビジネスを創造する可能性を秘めている技術と言われているが、国内の企業もIoTを武器に新たな市場の獲得に乗り出したようだ。