2016年5月末から台湾で開催されているComputex Taipei 2016。多くの企業が新たな製品やソリューションを発表するなか、Intelは基調講演「e21 Forum」に参加し、同社CVP General Manager of CCG(Client Computing Group)のNavin Shenoy氏などが登壇した。Intelと言えばプロセッサーを始めとする半導体ベンダーとしてあまりにも有名だが、既にITを取り巻く環境はPCに厳しく、我々も次世代コンピューティングに対して必要なのが、プロセッサーの先にある「何か」であることを把握している。同社CEO Brian Krzanich氏も同社がPCに主軸を置いた企業から、クラウドやIoT時代のスマートデバイスを提供する企業へと進化すると述べているように、プロセッサーだけにとどまるのは得策ではないという。

IntelのNavin Shenoy氏(同社動画資料より抜粋)

2016年4月にIntelが開催した「Storage Builder Executive Summit」に登壇したDatacenter Storage Group Architecture&Software EngineeringディレクターのGlenn Weinberg氏も、自社を"ストレージビルダー"と定義し、プラットフォーム化を推進していることを発表。取材した時点では富士通や日立など73社がコミュニティに参加し、既に55%のシェアを持つと誇りつつ、2016年末までに75%を目指すと自信を見せていた。

「Storage Builder Executive Summit」に登壇したIntelのGlenn Weinberg氏

Intel創業メンバーの1人であるGordon Moore氏の「ムーアの法則」は、半導体上のトランジスター数は18カ月ごとに倍増するという1965年の論文を元にIT産業を牽引していったが、昨今のIntelはTick-Tock(チックタク)戦略を取りやめ、2ステップから3ステップのPAO(Process Architecture Optimization)に移行することを明らかにしている。Krzanich氏やWeinberg氏らの発言から察するにIntelは半導体ベンダーとしての限界が見えているのだろうか。答えは否だ。

より多くの演算を必要とするVR(仮想現実)を例に挙げても、より高速なプロセッサーの能力は必要である。基調講演中にShenoy氏はMSIが開発したリュックサック型PCとVRヘッドセットなどを組み合わせたゲームのデモンストレーションを披露したように、VRやMR(拡張現実)にはより高性能なプロセッサーが必要だ。今回の基調講演では、第7世代Intel Coreプロセッサー(開発コード名 Kaby Lake)や、ワークステーションやサーバー向けプロセッサーの「Intel XeonプロセッサーE3-1500 v5製品ファミリー」を発表。その存在感を強く知らしめた。今後ますます加速するビジネスのクラウド活用や機械学習、アナリスティックといった分野でも高性能なプロセッサーは広く求められる。

MSI製リュックサック型PCを使い、VR体験でネックだったケーブル問題を解決している(同社動画資料より抜粋)

Intel Xeonプロセッサー- E3-1500 v5ファミリーの概要(同社動画資料より抜粋)

基調講演では、冒頭でKrzanich氏の発言にある"クラウドやIoT時代のスマートデバイスを提供する企業"へ進化するという点でも多くの技術も披露した。IoT分野では、ホームゲートウェイ用デバイスとして「Intel AnyWAN GRX 750 SoCファミリー」とIntel 第5世代11ac対応MU-MIMO Wi-Fiファミリーに含まれる「Intel XWAY WAV500 Wi-Fiチップセット」を発表。あらゆる"モノ"をネットワークでつなぐため、OEM/ODMメーカーにチップセットを提供して、PCとIntel製プロセッサーと同じビジネスモデルでシェア拡大を目指す。

ホームゲートウェイ分野にもIntel製チップセットを提供する(同社動画資料より抜粋)

次世代の輸送やセキュリティといった分野に欠かせないドローンにもIntel製チップセットを提供する(同社動画資料より抜粋)

他方でネットワーク分野における2016年のトレンドといえば、「5G(第5世代移動通信)」は外せない。周波数利用効率のさらなる向上や周波数帯域の拡大、ネットワークの高密度化などを目的に再設計のニーズが高まっているが、IntelはFoxconn(鴻海精密工業)と協業し、5Gの普及を加速させるネットワークインフラ技術を共同開発すると発表した。EVP General Manager of DCG(Data Center Group)のDiane Bryant氏は、モバイル基地局などにコンピューティングリソースやストレージを配備し、新たなソリューションを提供するMEC(Mobile Edge Computing)や、モバイル基地局を仮想化するCloud-RAN(Cloud Radio Access Network)、ネットワーク機能を仮想化するNFV(Network Function Virtualization)などの技術を用いた概念実証など開始。

IntelとFoxconnの協業により5Gの加速が進む可能性は高い(同社動画資料より抜粋)

現在の企業はクラウド化によるコスト削減や生産性の向上が可能になり、CoE(Center of Excellence: 部門を横断した専門部隊)やDevOps(Development and Operations: 開発と運用を組み合わせたソフトウェア開発手法の一種)といった新たなビジネススタイル導入が求められている。さらなる生産性の向上には自社のビジネスモデルを変革させようとしているIntelの力が今後も必要だろう。

阿久津良和(Cactus)