京都大学(京大)などは5月23日、リチウムイオン電池内部の反応不均一現象を可視化し、その発生要因を解明したと発表した。

同成果は、京都大学人間・環境学研究科 内本喜晴教授、折笠有基助教(研究当時、現在は立命館大学准教授)、立命館大学、産業技術総合研究所、KRIらの研究グループによるもので、5月19日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

リチウムイオン電池の性能を左右する因子として、合剤電極における反応不均一現象が関与していることは多くの研究者が予測していたが、実験的に検証し解析するツールはこれまでほとんどなかった。また、不均一性は、電池内部の電子伝導率とイオン伝導率の違いによるものと考えられていたが、これを実測する手段もなかった。

同研究グループは、組成は同じで電池性能が異なる合剤電極を対象に、二次元イメージングX線吸収分光法を用いて、合剤電極内の断面方向の反応不均一現象を計測。X線吸収分光法はリチウムイオンの出入りに伴う遷移金属の酸化還元を利用した電極活物質の価数を見積もることが可能で、どの程度充電しているかの指標を与えるが、今回、2次元化した検出器を使用することで、合剤電極中の位置ごとの充電状態をマッピングした。

この結果、合剤電極中の隙間(空孔率)が大きい電極では反応が均一に進行していた一方で、空孔率が小さい電極では、電極・電解質の界面から優先的に反応が進行し、内部に大きな不均一性があることが示された。

さらに同研究グループは、合剤電極中の電子・イオン伝導率を分離計測するために6本の端子を用いて計測する測定法を開発。同法により測定を行った結果、合剤電極中では電子伝導率に比べてイオン伝導率が非常に小さいこと、空孔率が小さい場合はイオン伝導率がさらに小さくなることが明らかになった。

以上の結果から、リチウムイオン電池の実用的な合剤電極中では、イオン伝導が律速になっている可能性が極めて高く、反応の不均一性が性能支配因子であることを実証したといえる。同研究グループは、今回の成果をもとに合剤電極の設計を行うことで、リチウムイオン電池のさらなる性能向上が加速できるとしている。

リチウムイオン電池合剤電極の模式図。電子は集電体側、リチウムイオンは電解質側から供給される

同じ組成で空孔率が異なるリチウムイオン電池合剤電極の断面における二次元イメージングX線吸収分光測定の結果(上:電極表面側、下:集電体側)。色の変化は反応進行度を表しており、空孔率が小さい試料ほど色の不均一性が顕著