国立長寿医療研究センター(長寿医療研究センター)と日立製作所(日立)は5月19日、両手の親指と人差し指のタッピング運動から、アルツハイマー型認知症特有の運動パターンの抽出に成功したと発表した。

同成果は、5月20日付けの回復期リハビリテーション病棟協会誌「Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science」に掲載された。

現在、アルツハイマー型認知症の早期発見に向けたスクリーニング検査として、血液検査や嗅覚テスト、医師の問診をタブレット端末上で再現した検査などがあるが、採血時の痛みや検査時間の長さなど、被験者の負担が大きいという問題があった。一方、被験者の負担が少ない検査として、ボタン押しやタブレット端末を用いた片手の手指運動計測による認知機能評価も行われてきたが、十分な検査精度であるとはいえなかった。

そこで両者は2013年に、認知症の重症患者は音に対する左右の脳の連携が遅くなるという知見に着目し、両手の親指と人差し指の運動計測の有効性を検証するため、臨床研究を開始した。

長寿医療研究センターは、アルツハイマー型認知症およびその予備群の外来患者23名と高齢健常者22名を対象に手指の運動計測を行った。この結果、片手の指タッピング運動と認知症の関連は見られなかったが、両手交互指タッピング運動で健常群と認知症群の間に有意差があり、特に認知症群では、両手同時の指タッピング運動における両手の位相差のばらつきや、両手交互の指タッピング運動における二指の接触時間のばらつきが見られたという。

計測は、日立が開発した磁気センサ型指タッピング装置「UB1」で実施。計測結果の解析は、計測した両手の指タッピング運動の出力波形から多様な特徴を捉える日立の解析技術および解析ソフトによって行われた。

UB1は、装着が簡便で生体安全性が高い小型の磁気センサを採用しており、計測時間は15秒と、被験者の負担が少ない評価が可能。また解析ソフトでは、UB1に搭載された指タッピング運動の振幅、タッピング間隔、両手の位相差などに関する基本的な21個の特徴量に加えて、両手指のリズム運動機能の低下を示す二指の接触時間や、両手の動作波形の類似度などに関する23個の特徴量を算出できるため、指タッピング運動のさまざまな性質を高い精度で評価できる。

両者は今後、より多数の指タッピング運動データの計測と解析をすすめ、同評価方法の有効性を検証していくことで、アルツハイマー型認知症の早期発見を向けた簡易な検査法の確立に取り組んでいくとしている。