大阪市立大学(大阪市大)は5月19日、顔以外にも模様がある魚でも、顔模様だけで相手を識別していることを明らかにしたと発表した。
同成果は、大阪市立大学大学院 理学研究科 幸田正典教授らの研究グループによるもので、5月18日付の米国科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。
同研究グループは、2015年11月にアフリカの淡水魚の一種「プルチャー」が顔の模様で相手を識別することを明らかにしていたが、プルチャーには、顔にしか模様がないため、個体識別のカギとなる「模様」が偶然顔にあったという可能性も考えられた。
そこで今回の研究では、全身に模様がある淡水魚「ディスカス」を用いて実験を行った。ディスカスは、既知の個体を識別してペアを作っており、ヒトやサル類のように顔が個体識別に重要であるならば、同魚も顔に基づきペア相手の識別をしていることが考えられる。
実験では、ペア相手と未知個体の顔と体を入れ替えた合成画像を使用。ディスカスはペア個体に対しては挨拶行動を、未知個体に対しては攻撃行動を示すが、顔部分を入れ替えた画像を見せたところ、顔がペア個体と同じモデルに対してはペア個体と同様の挨拶行動を、顔だけが未知個体のモデルに対しては攻撃行動を示す結果となった。この結果から、魚類においても"顔"が相手の識別で重要な部分であることが改めて示されたといえる。
同研究グループは、魚類が顔で相手個体を識別することについて、"眼"が関係していると考察している。これまでの哺乳類の顔認識の研究から、鼻や口よりも眼が大事な役割を果たしていることは知られていたが、脊椎動物の眼の起源は魚類が出現した古生代にまでさかのぼるため、同研究グループは、古生代の魚類の段階で、眼を含めた捕食者の顔認識の能力が進化したと考えている。
ヒトの場合、危険なものを素早く識別できる「皮質下回路」と表情なども読み取る「皮質回路」の2つの顔認識に関わる神経回路が知られており、同研究グループは、「ヒトの顔認知における動物的神経回路の起源は、魚類段階までさかのぼる」との仮説をたて、検証実験を開始しているという。