東北大学(東北大)は5月13日、ショウジョウバエのオスで求愛と攻撃の二者択一的スイッチとして働く神経回路を発見したと発表した。
同成果は、東北大学大学院生命科学研究科 山元大輔教授、小金澤雅之准教授、北海道教育大学 木村賢一教授らの研究グループによるもので、5月12日付けの米国科学誌「Current Biology」オンライン版に掲載された。
出会った相手が異性ならば求愛し、同性なら攻撃して追い払うという二者択一的行動は、多くの動物のオスに見られる普遍的な戦略となる。この二者択一の行動選択はほとんど瞬時になされるが、その際の脳の仕組みはこれまで不明となっていた。
オスが求愛行動をするには、「fruitless」と呼ばれる遺伝子の機能が必要となる。同遺伝子は、キイロショウジョウバエのオスが同性愛化する突然変異「satori」の原因遺伝子として山元教授らによって同定されたもので、およそ10万個ある脳の神経細胞のうち約2000個(Fruitless細胞)で働いている。
オスの脳内のFruitless細胞で同遺伝子が働くことでFruitlessタンパク質が合成されるが、一方メスの脳ではFruitlessタンパク質が作られないため、脳に性差が生まれている。このFruitless細胞のうち、「P1細胞群」と呼ばれる約20個からなる細胞グループはオスにしかなく、同細胞群がオスの求愛中枢であることがこれまでにわかっていた。
同研究グループは今回、P1とそっくりの形をしたFruitlessを持たない細胞「pC1」が約20個存在し、このpC1が攻撃中枢であることを立証。P1細胞群を人工的に興奮させると、オス同士が求愛をはじめるのに対して、pC1細胞を興奮させると喧嘩をはじめたという。
続いて同研究グループは、P1細胞を制御するLC1細胞群を特定。LC1を人工的に興奮させるとオスが求愛をやめた一方で、pC1細胞群が活動を開始し、この結果、攻撃が引き起こされることがわかった。同研究グループはこの結果について、「LC1細胞群は求愛中枢に対しては"愛の抑制者"として働き、同時に攻撃中枢には"怒りのアジテーター"となることがわかったのです」と説明している。
ただし、LC1細胞群は攻撃中枢に直接働きかけているわけではなく、「mAL」というもうひとつの細胞群を介して作用していることがわかった。mAL細胞群は普段、攻撃中枢の暴走を抑える"監視役"として働いており、LC1はこの監視役による抑制からpC1を解き放つことで攻撃を引き起こしている。
したがって、LC1細胞群は、求愛中枢に対しては直接ブレーキをかけるが、攻撃中枢に対してはワンクッション置いてのブレーキ解除により攻撃プログラムを起動させる、いわば二段構えの抑えのスイッチとして働いているといえる。