東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は5月11日、「すばる望遠鏡」を用いて130億光年の遠方宇宙にある約3000個の銀河の距離を測定し、3次元地図を作成したと発表した。さらに、地図中での銀河の運動を詳しく調べ、重力によって大規模構造が成長していく速度の測定にも成功。アインシュタインの一般相対性理論の予想と一致することを確かめた。
同成果は、Kavli IPMU 奧村哲平特任研究員、日影千秋特任助教、東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻 戸谷友則教授、東北大学大学院 理学研究科天文学専攻 秋山正幸准教授、京都大学大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 岩室史英准教授、太田耕司教授らの研究グループによるもので、4月26日付の日本天文学会誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」オンライン版に掲載された。
宇宙はビッグバンで誕生して以来、膨張を続けている。単純な理論予想では、その膨張は減速していくはずだが、近年の詳細な宇宙の観測から、逆に加速膨張していることがわかっている。その原因としては、「ダークエネルギー」が宇宙を満たしているか、宇宙論が基礎に仮定している一般相対性理論が破綻しているかという2つの可能性が考えられるが、いまだ未解明のままとなっている。
約100年前にアインシュタインによって確立した重力理論である一般相対性理論は、太陽系以下のスケールでは高い精度で実験的に検証されているが、100億光年を超えるような宇宙論的なスケールでも成り立つかどうかはわかっていない。これを検証するための最も有力な観測のひとつとして、銀河のサーベイ観測によって多数の銀河までの距離を測定し、宇宙における銀河の3次元分布(宇宙大規模構造)を調査する方法があるが、これまでの大規模構造成長速度の測定は、天体が観測者から遠ざかる運動をする場合に光の波長が長くなる「赤方偏移」の値が1、共動距離にして約100億光年までの比較的近傍の宇宙に限られていた。
今回、同研究グループは、「FastSound(FMOS Ankoku Sekai Tansa (暗黒世界探査) Subaru Observation Understanding Nature of Dark energy)」という銀河サーベイを遂行し、赤方偏移の値が1を超える宇宙での重力理論の検証を行った。
FastSoundは、ハワイ島マウナケア山のすばる望遠鏡に、「FMOS(Fiber Multi-Object Spectrograph)」という分光器を取り付けて、赤方偏移の値が1.2から1.5、すなわち共動距離で約124億光年から147億光年の宇宙における銀河までの距離を測定する銀河サーベイ。2012年から2014年にかけて観測が行われ、2015年に約3000個の銀河からなる宇宙の3次元大規模構造マップが完成した。
同研究グループは、その中での個々の銀河の運動を調べ、大規模構造の成長速度の測定に成功。測定の統計的有意度は99.997%で、100億光年を超える遠方宇宙でこれだけの有意度で成長速度を測定できたのは世界初だという。また、この測定値を一般相対性理論の予想値と比較したところ、測定誤差の範囲で一致していることが明らかになった。
アインシュタインはかつて、宇宙の大きさが変わらないものであることを主張するため、一般相対性理論の基礎方程式に「宇宙定数」と呼ばれるものを追加したが、のちにハッブルによって宇宙の膨張が発見されたことにより、一時期は不要であるとされていた。しかし、現在の加速する膨張宇宙は、一般相対性理論にこの宇宙定数を加えることで説明できることが知られており、今回の観測結果は、この宇宙モデルにさらなる支持を与えるものであるという。