GEヘルスケア・ジャパン(GEヘルスケア)は4月12日、2016年の成長戦略に関する記者説明会を開催した。
人口構成や疾病ニーズの変化、日本の医療費の増大などによる医療業界を取り巻くニーズの変化は、他の産業と比べても大きいものであるといえる。GEヘルスケア・ジャパン 代表取締役社長兼CEO 川上潤氏は、医療業界の現状について「医療はこれから伸びていくインダストリーだと思われており、イノベーションが求められている。今後、クラウド、モバイル、IoT、ロボットなどの技術の活用に向けた大きな市場の変化が起こっていくため、GEヘルスケアとしてビジネスをどのように捉えていくか考え、これまでとは違った形で成長していかなければばならない。ここがターニングポイント」であると分析している。
そこで同社が打ち出した方針は「顧客アウトカムの向上」だ。"アウトカム(outcome)"とは、直訳すると結果や成果という意味だが、"リザルト(result)"のように因果関係がはっきりしたものではなく、複合的な原因によってもたらされるもの。直接的に発生した成果物ではなく、実際にどんな影響を与えたかを評価すべきだという考えから注目されている指標だ。
川上氏は、「これまでは、『この技術が素晴らしいので使ってください』とモノを売ってきた。しかし、お客様が必要としているのはスペックの高いCTなどの機器ではなく、安全に質の高い検査ができるということ」と、顧客アウトカムの向上について説明したが、これを実現するために同社は、デジタル活用および疾病別のアプローチを行っていくという。
デジタル活用についてはもともと、GEグループ全体として力を入れている。同グループは2015年10月、GEデジタルという本社のIT部門および各事業のソフトウェアチームからなる横串型の組織を発足。"デジタル・インダストリアル・カンパニー"への変革を進めているところだ。デジタル活用により、グループ自体の生産性の向上を図っていくほか、アプリケーションの提供、産業分野のプラットフォームの構築を目指している。では、GEヘルスケアジャパンとしてはデジタルインダストリアルに対してどう取り組んでいくのか。
そのひとつが「Brilliant Factory」だ。これは自社工場の生産性を上げるためのデジタル活用であり、プロセスモニタリングや欠品チェックなどといったリアルタイムでの品質管理や、3Dプリンタの活用により、工場の生産性および製品の品質向上、製造コスト削減といったアウトカムが期待できる。実際に同社の日野工場にてパイロット運用を進めているという。
また顧客向けのデジタル活用として「Brilliant Hospital」にも取り組んでいく。これは、同社が日本法人として独自に名前を付けたという新しいサービスで、医療従事者および経営者向けに大小さまざまなソリューションを提供する。これにより、医療機器のダウンタイムの削減やワークフローの効率化を図っていくほか、GEの産業用クラウドサービス「Predix Cloud」でデータ解析を行い、病院のオペレーションに役立てるといったことも想定している。
たとえば、同社のアンギオ(血管撮影)システム3台を利用している病院の放射線科では、従来の同社のメンテナンスサービスに不満があったという。同院では救急医療に力を入れていることもあり、装置が常に万全な状態であることが求められていた。そこで、Brilliant Hospitalをパイロット導入したところ、日勤帯での装置の修理時間が40%減少したうえ、緊急修理に掛かる時間がゼロになったという。
さらに同社は、顧客アウトカムの向上に向け、デジタル活用に加えて疾病別のアプローチにも取り組んでいく。たとえば、認知症の原因であるアルツハイマー病の早期診断に向けて、診断薬となるPET製剤の合成設備から、PET画像の撮像・解析までをソリューションとして一気通貫で提供していくとしている。また同社は認知症のほか、肝臓疾患、女性医療、循環器領域においてもソリューションを提案していくという。
このように同社は今後、多様化する医療課題に柔軟に対応していくため、医療機器メーカーから脱却し、ソリューションカンパニーへの転換を図っていく考えだ。