今年も4月20日から22日にかけて横浜市の情報文化センターで「COOL Chips XIX」が開催される。桜の季節は終わりであるが、会場の近くにある横浜公園(横浜DeNAベイスターズのホームグラウンドの横浜球場がある)はチューリップが花盛りで美しい季節である。また、会場は、横浜の名所である山下公園や赤レンガ倉庫にも近い。
研究発表が中心の学会は、その分野の専門家でないと議論について行き難いが、COOL Chipsは斯界の権威が要領よくまとめた講義を行ってくれる基調講演や招待講演が多く、専門外の人にも理解しやすい学会である。
4月20日は午後から2つのスペシャルセッションがあり、最初のセッションでは、香港技術大学のJiang Xu准教授が、チップ内およびチップ間の光インタコネクトについて講義を行う。CMOS互換のプロセスで製造できる光インタコネクトは、現在ホットな話題の1つである。
4月20日の2つ目のセッションではソウル国立大学のKiyoung Choi教授が、STT-MRAMを使って低電力キャッシュを実現するアーキテクチャについて講義する。東京大学の中村教授が主催する「Noff(ノーマリオフ)プロジェクト」でも不揮発性のSTT-MRAMをキャッシュとして使って消費電力を抑えるという研究が行われており、Noffの関係者に出席いただければ、面白い議論が期待できるかも知れない。
2日目の最初の基調講演を行うのは、チューリッヒ工科大学のLuca Benini教授である。基調講演のタイトルは「Sub-pj per Operation Scalable Computing – the Next Challenge」というもので、Internet of Everythingの時代に向けてセンサや回路の消費エネルギーの低減が重要であり、ヘテロな3次元集積という実装技術から近似処理、非ノイマンアーキテクチャまで、1000倍のエネルギー効率の改善を目指すという興味深い講演である。
2番目の基調講演はIntelのAshraf Lotfi氏の「Power Optimization Leveraging FPGA and Voltage Regulator Chip Co-Design」と題する講演である。IntelはFPGAを同一パッケージに組み込んだCPUを発表しており、Intelの関係者からFPGA混載について直接話を聞けるのは貴重な機会である。
3番目の基調講演はソニーの平山照峰氏による「Modality of CMOS Image Sensor Competition」、4番目の基調講演はMaxeler TechnologiesのCEOのOskar Mencer氏の「The Multiscale Dataflow Computing Chip」と題する基調講演である。Mencer氏はImperial College Londonの講師も務めている。
3日目の基調講演はバルセロナ スーパーコンピュータセンターのディレクタを務めるMateo Valero氏の「Cool Techniques for Hot Chips」と題する講演が行われる。ヨーロッパで開発している高性能、低電力のRuntime Aware Architectureについて詳しい話が聞けるのではないかと期待される。
3日目の2番目の基調講演は、IntelのMichael McCool氏が「New Frontiers in Computing」と題して講演を行う。アブストラクトを見る限りでは、Intelの内蔵グラフィックユニットやCPU組み込みのFPGAなど広く最近の発展分野を取りあげる講演であると思われる。Intelが何に興味を持ち、どの方向に進んで行こうとしているかを知りたいという向きには非常に有用な講演ではないかと思われる。最後の招待講演は、NECの宮村信氏の「NanoBridge-based FPGA in Harsh Environments」である。ビア状のスイッチング素子を使うFPGAで、高温、ノイズ、放射線に強いという。
基調講演や招待講演が多いので、その分、いわゆる研究論文の発表セッションは少ないが、それでも画像などの認識のセッション7、低電力処理のセッション9、メモリのセッション13、FPGAとソフトウェアのセッション14があり、合計11件の論文発表が行われる。また、学生や若い研究者のポスター発表が行われ、優秀ポスターの表彰が行われる。
COOL Chipsは日本で行われる数少ないIEEEの学会であり、国内の開催であるので参加費用も海外の学会に比べると格段に安くて済む。これから研究者の道を進んで行こうという若人にはぜひ参加して戴きたい学会である。