近年、さまざまな日本企業が春のミラノへ繰り出している。これは、イタリア・ミラノで行われる「ミラノサローネ」に合わせてのことだ。
ミラノサローネ(正式名称:サローネ・デル・モービレ・ミラノ)は家具業界の世界的な見本市なのだが、出展している日本企業は、家具を展開している企業だけではない。たとえば、トヨタの高級ライン「レクサス」や時計ブランド「シチズン」など、家具と直接は関係のない企業の出展実績も見受けられる。
企業の活動として「業界見本市への参加」は珍しくないが、異業種への参入とも思えるこのような動きは珍しい。なぜ、このような状況が生まれているのだろうか。当事者である企業広報のコメントを交え、企業がミラノに出向く理由を考察してみたい。
ミラノサローネの構造と、日本企業の参画
ミラノサローネは「国際家具見本市」であることは前述の通り。日本で言えば東京ビッグサイト、幕張メッセのような展示会場(ただし、大きさは東京ビッグサイトの東ホール全館と比較した場合、約2.8倍の広さ)で行われる大規模なものだ。
ミラノサローネ会場における制約の多い出展を嫌った地元の家具メーカーが、市街地で展示を行ったこと。それが、ミラノサローネの「拡大」の始まりと言われており、「家具」という枠にとどまらず、他業種の企業も参加するような流れになっていく。そんな中で、展示会場での催しと、ミラノ市街地で行われる各種イベントをひっくるめた総称「ミラノデザインウィーク」が使われるようになっている。
トヨタの高級車ブランド「レクサス」は、「ミラノデザインウィーク」へ何度も参加しており、2013年よりミラノでの大規模な展示に加え、同ブランド主催のデザインコンテスト「Lexus Design Awardコンテスト」の優秀作品の展示を継続的に実施している。
同ブランド広報は、「近年のミラノデザインウィークは、家具の見本市から世界クラスのデザインエキシビションへと成長し、それと同時に、デザイナーや様々な分野の企業が自らのデザインやブランドメッセージを発信するステージへと変貌しています」と語る。その言葉通り、近年は(市街地での展示※フォーリ・サローネにおいて)各企業が趣向をこらしたインスタレーション(絵画などの作品単体でなく、展示空間そのものを作品として提示する手法)を展開する機会という色合いが強くなっている。
2016年、レクサスが予定しているミラノデザインウィークでの展示「Lexus - An Encounter with Anticipation」のイメージ。昨年の展示は、ミラノ市街地のインスタレーション全体を審査する「Milano Design Award」において「Best Entertaining」賞を受賞。自動車会社としては初のことだという |
ミラノデザインウィーク関連で話題になったインスタレーションといえば、2014年に発表された、時計メーカーのシチズンの作品が印象深い。青山で行われたインスタレーション展示には7万人もの来場者が訪れ、時計のパーツを多く用いたきらびやかな展示は国内の人気アートイベントとして注目されたが、作品の初出はミラノデザインウィークであった。
同社が2014年にミラノデザインウィークへ参加したのはグローバルブランディングの一環だったが、1年の休息期間を経て2016年に参加を決めたのは、「光発電エコ・ドライブ技術の開発から40年を迎えた」(シチズン広報)ためだという。2014年の展示の際、ミラノの会場には6日間の会期中約5万人が来場したというから、その動員や注目度を期待しての再出展といえるだろう。
シチズンが2014年に行った展示は、時計に使われているパーツを用いた金色に輝くインスタレーションだった |
今年シチズンが展開するインスタレーション“time is TIME”イメージ。空間デザインを建築家 田根剛氏(DGT.)が手がける |
一方、2015年にミラノデザインウィークに初出展したAGC(旭硝子)は、続けて2016年も参加を予定している。昨年の初回参加は、同年開催のミラノ万博への協賛をきっかけに行われたという。
「当社の扱う製品は、ガラスや電子部材などの素材で、最終消費者がそれ単独でお使いになることは殆どありません。そのため、建築や自動車、ディスプレイなどの業界向けに製品PRを行っています。一方で、世の中の製品は、建築家や工業デザイナー、プロダクトデザイナーが将来の商品設計や先進デザインの鍵を握っておられることも事実だと考えています。こういったデザインに関わる方々に直接新しいガラスをご覧いただき、インスピレーションを働かせ、様々な用途に発展させていただきたいと考えました」(AGC広報)。
展示の反響についても、「出展をきっかけとして、ガラスサイネージ製品の“Glascene”や“infoverre”の注目度があがり、プロジェクションマッピングなどの映像表現領域で活躍される国内のデザインファームから引き合いをいただき、採用していただいています」と、海外での採用実績や、認知度の向上を語っていた。
具体的なビジネスチャンスの増加から、クリエイターとの新たな出会いの創出まで。三者三様の答えが見て取れたが、やはり国外市場へのデザイン面での訴求が第一の目的となっているように感じられた。日本国内でのPRとはかなり毛色の違う表現が、今年も多く見られるものと思う。
もちろん、日本企業や日本の著名クリエイターは、ほかにも多くミラノデザインウィークに参加する。12日からはじまる展示と、現地からのレポートに注目していきたい。