国立遺伝学研究所(遺伝研)は4月8日、子宮内膜症のリスクとなる遺伝子多型(SNP)について、どのような分子的なメカニズムで病気が発症するのか、その一端を明らかにしたと発表した。
同成果は、遺伝研 人類遺伝研究部門 中岡博史助教、井ノ上逸朗教授らの研究グループによるもので、4月7日付けの米科学誌「PLOS Genetics」に掲載された。
子宮内膜症は本来の組織以外に子宮内膜が付着し増殖する病気で、成人女性の10%ほどが罹患しているが、その病態メカニズムは明らかになっておらず、効果的な治療法はいまだ見出されていない。
これまでに、理化学研究所の解析により子宮内膜症のリスクとなるSNPがヒト染色体9p21領域に報告されていたが、今回、同研究グループは、この9p21領域をさらにスクリーニングすることによって、遺伝子調節領域に存在する機能的SNPを同定することに成功。この機能的SNPは、ANRILという細胞増殖に重要な役割を果たす非コードRNAのエンハンサー領域(調節領域)に存在し、転写因子TCF7L2のDNA認識配列上に位置することが明らかになった。
さらに同研究グループは今回、次世代シーケンサーを用いたアレル特異的遺伝子発現解析手法を開発。これによりSNPがアレル特異的にANRILプロモータとのクロマチン相互作用を及ぼすこと、また転写因子TCF7L2との結合能に影響することを明らかにした。これは、クロマチン相互作用による転写促進活性の違いによってANRILの発現量に変化が生じることを示唆している。
ANRILは多数の遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている、また、ANRILの調節領域に結合するTCF7L2は、Wnt系シグナルを伝達する転写因子であるため、Wnt系シグナルが子宮内膜症へ関与していることが考えられる。したがって、ANRILやWnt系シグナルの働きを研究することが、子宮内膜症の治療標的の探索に結びつくと期待されるという。