裕福で、子供と同居している人ほど炎上に参加する傾向がある――こんな結論を導いた、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの助教/専任研究員の山口真一氏の"ネット炎上"に関する論文が各種メディアで取り上げられ、話題を呼んでいる。
同論文では、炎上を「「ある人物が発言した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」と定義している。
例えば、自分がアルバイトとして勤める店舗にいたずらをして、その様子をとらえた写真をTwitterに投稿した結果、警察沙汰になるなど、深刻な炎上も増えている。一方、ある女子専門学校生がおじいちゃんの印刷所が作っている「方眼ノート」についてTwitterに投稿したことで、一気に注文が殺到したという"よい"炎上も起きている。
今回、炎上は多発するようになってから日が浅く、炎上の実態や炎上加担者について確立した定説があるわけではなく、研究が不足しているという実情を踏まえ、以下の仮説に関する検証が行われた。
炎上の実態に関する仮説
- 炎上件数は近年増加している
- 企業に関連する炎上が多く発生している
- 炎上加担者は少ない
炎上加担者属性に関する仮説
- 炎上加担者はインターネットヘビーユーザである
- 炎上加担者は年収が少ない
- 炎上加担者はインターネット上で非難しあって良いと考えている
上記の仮説を検証するため、日本国内に住む20歳以上のインターネットモニター男女1万9992人に対し、アンケートが行われた。アンケートでは、以下の質問を尋ね、5と6を選択した人を「炎上加担者」と定義した。
炎上事件についてあてはまるものをひとつ選んでください。
- 炎上事件を聞いたことがない
- ニュースなどで聞いたが、実際の書き込みを見たことはない
- 実際の書き込みを一度だけ見たことがある(まとめサイト含む)
- 実際の書き込みを何度か見たことがある(まとめサイト含む)
- 1度書き込んだことがある
- 2度以上書き込んだことがある
まず炎上の実態に関する仮説について、山口氏が法人向けソーシャル・リスク・マネジメント・クラウド・サービス「eltes Cloud」をもとに検証した結果、仮説の「炎上件数は近年増加している」と「企業に関連する炎上が多く発生している」は支持されたとしている。
炎上加担者の数は、アンケートの結果で「1度書き込んだことがある」「2度以上書き込んだことがある」人はわずか303人(約1.5%)だったとして、支持されたとしている。大きな影響力を持っていると感じる炎上だが、それに加担している人は1.5%にすぎないというわけだ。
次に、炎上加担者属性に関する仮説については、上記のアンケートから、より詳細な質問をするために絞った2020人のデータから推定が行われた。
推定の結果、炎上に加担する率において有意になった変数として、「性別」「年齢」「子供」「個人年収」「世帯年収」「ラジオ」「ソーシャルメディア」などが挙げられている。
具体的には、各変数について以下のような見解が示されている。
- 男性は、女性に比べて炎上に加担する確率が約0.6%高い
- 年齢が1%増えると、炎上に加担する確率が約0.02%減少する
- 子供と同居している人は、そうでない人に比べて、炎上に加担する確率が約0.8%高い
- 個人年収が1%増えると、炎上に加担する確率が約0.0006%増加する
- 世帯年収が1%増えると、炎上に加担する確率が約0.003%増加する
- 平日におけるラジオ視聴時間が1%増えると、炎上に加担する確率が約0.002%増加する
- 平日におけるソーシャルメディア利用時間が1%増えると、炎上に加担する確率が約0.002%増加する
- インターネット上なら強い口調で非難しあっても良いと考えている人は、そうでない人に比べて、炎上加担確率が約0.02%高い
これらに対し、学歴や平日のインターネット利用時間は、炎上加担確率に有意な影響を与えていないという。
上記の結果より、炎上加担者属性に関する仮説については、「炎上加担者はインターネット上で非難しあって良いと考えている」は支持されたが、「炎上加担者はインターネットヘビーユーザである」と「炎上加担者は年収が少ない」は棄却されたとしている。
そして、「炎上に積極的に加担している人は、年収が多く、ラジオやソーシャルメディアをよく利用し、掲示板に書き込む、インターネット上でいやな思いをしたことがあり、非難しあっても良いと考えている、若い子持ちの男性であるといった人物像が浮かび上がってくる」との分析が示されている。
これまでの研究や一般的なイメージでは、炎上に加担する人は「貧しい人や教養のない人」といった像が強かったが、今回の検証では逆の結果が出たことになる。そのため、炎上に対するこれまでのイメージが覆されたとして、各所で話題になっているようだ。
なおこれらの結果は、企業・組織の炎上対策のみならず、ソーシャルメディアを活用したマーケティングにも活用できるだろう。