2013年度「日本再興戦略」において、「全ての健康保険組合に対し、レセプト等のデータの分析、それに基づく加入者の健康保持増進のための事業計画として『データヘルス計画』の作成・公表、事業実施、評価等の取り組みを求める」ことが掲げられた。厚生労働省は2015年度に第1期となる「データヘルス計画」を全健保から提出させ、各健保は計画に基づく取り組みを開始した。超高齢社会が急速に進展する日本では、従業員の健康づくりも企業にとって、重要な経営課題となっている。
このような状況の中、実は「データヘルス計画」が始まる以前、データヘルスという言葉自体が一般化する前から先進的な取り組みを行っていた企業がある。ICT利活用と環境構築の技術を融合し、独自性の高い「働く場」「学ぶ場」を創造している内田洋行だ。
そこで本記事では、内田洋行 取締役常務執行役員 経営管理本部長の秋山慎吾氏と、内田洋行健康保険組合 常務理事の松井陽一氏に、データヘルスへの取り組みを開始した経緯や成果などを伺った。
低コストかつ効率的・効果的な保健事業支援システム「UCHIDA元気LABO」
内田洋行健康保険組合では2014年度の厚生労働省補正予算で、「データヘルス計画モデル事業」と「先進的な保健事業の実証等」の二つの案件を申請し、合計で1500万円の補助上限額が採択された。この事業では、「生活習慣病の発症と重症化予防」を目的とした、モデルとなるデータヘルス計画を作成したほか、データ分析と連動し、プッシュ型のヘルスケアICTサービスとして、レセプトデータや健診データの解析技術に長けたミナケアと内田洋行健康保険組合が合同で開発した保健事業支援システム「元気LABO」の採用による実証事業を行った。同システムは、グループ会社を含む被保険者約3400名の中から、健康面でのリスクを抱える人に対して、保健師がメールでダイレクトに注意喚起やアドバイスを行うことができるというもの。専門的なデータ分析機能とメールによるアプローチで、従来と比べて低コストかつ効率的・効果的な保健事業支援システム「UCHIDA元気LABO」を実現した。
すべての基盤となった保健事業改革
冒頭でも述べたように、内田洋行が保健事業に対するICT利活用を開始したのは、データヘルスという言葉自体が一般化するかなり前のこと。その基盤を構築したのが、2012年度から始動した保健事業改革だった。
同社ではリーマン・ショック以降、景気の悪化とともに採用人数が減少し、被保険者の人数も減少傾向にあった。一方で前期高齢者の医療費高騰等による国への納付金の増加と被保険者の減少等による保険料収入の不足により、2011年度には健康保険組合の積立金が底をつく事態にまで陥ったそうだ。
秋山氏は当時を振り返り「こうした状況を打開するには、健康保険組合の原点に立ち返って、社員や家族の健康と真摯に向き合うことが必要だと感じました」と語る。
こうして同社では2012年度から、保健師に関する職務内容の改善および、健康診断の見直しを軸とした、保健事業改革を始動したのである。
保健師に関する職務内容の改善について「保健師には本来、保健指導という大切な役割があります。しかし当時は日頃の事務作業に忙殺され、この保健指導が先送りになってしまう状況だったのです」と語る松井氏。
保健師が抱える日常業務で一番多くの比率を占めていたのが、社員の健康診断に関する契約だった。健康診断を行う提携医療機関は全国で120ほどあったが、毎年それらの機関に対して個別に委託契約書の更新作業を行う必要があったのだ。この業務負担を減らすには、外部委託をするしかないが、財政的に見るとこれ以上のコスト増は避けたいところ。そこで検診項目を見直し、重要度が比較的低い項目や、内容的にかぶっているような項目を削除し、本当に必要なものだけに絞り込んだのである。