ガートナーが発表している「マジック・クアドラント」を、ソリューション選定のナビゲーションとして利用している企業は多いだろう。単年ではなく、数年分を比較して見ると市場におけるポジションの変化なども見てとれるが、ビジネスインテリジェンスおよび分析プラットフォーム分野においては、2016年版で大きな変化があった。
ガートナーのマジック・クアドラントは、特定の市場におけるリサーチの集大成で、ビジョンの完全性と実行能力という2つの面からベンダーを評価することにより、市場内で競合するベンダーの相対的な位置付けを広い視野から提示する。
ガートナーのマジック・クアドラント |
4つのブロックに分けてポジション表示される中で、ビジネスインテリジェンスおよび分析プラットフォーム部門においては、右上にあたる「リーダー」に入るものが2014年は10社、2015年には9社あったが、2016年版ではわずか3社になっている。残ったのは「Tableau」、「Microsoft」、「QlikTech」の3社だ。いずれも数年前から「リーダー」に入っていた企業ではあるが、なぜこのような結果になったのだろうか?
「まず、今回のマジック・クアドラントには前回までものと連続性がなくなっています。評価基準が変わったため、過去のものと比較してどこが伸びたという意味ではありません」と語るのは、ガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーションズ マネージング バイス プレジデントの堀内秀明氏だ。
新たな評価基準として加えられたのは、最近のビジネスユーザーのニーズだという。
「IT部門が分析を行うのではなく、ユーザー自身が手元で分析を簡単に行うことをサポートをしてくれるツールに需要があります」と堀内氏。そのため、セルフサービスBIを支援する機能の有無など、新たな評価基準が追加され、各要素の重み付けも変更された結果が2016年版に反映されているのだという。
わかりやすくグラフィカルな分析ができるツールを現場活用するニーズが拡大
2016年版でリーダーに入った3社は、いずれもグラフィカルな出力を備え、ExcelやAccessを使ったことがあるユーザーならば比較的容易に使えるという、わかりやすいインタフェースの製品を持つといった特徴がある。用途は、ビジネス部門が行うデータ活用だ。
「BIにおいては、IT部門がユーザー部門の要望をヒアリングして全社的に展開するレポーティングと、その結果や外部データ等を組み合わせてユーザー部門が行うセルフサービスBIがあります。レポーティングの方はほぼ成熟した状態にありますが、これまでExcel等で行われていたセルフサービスBIを簡単にできるものが今のトレンドです」と堀内氏は説明する。
トレンドということからもわかるように、現在需要がありよく売れているという点を評価している。ではなぜ、そうしたツールが求められているのだろうか。それは、レポーティング型のBIが普及してきたことも一因だという。
「レポーティングによってデータが揃っていることがわかりましたし、データが容易に手に入るようになりました。その結果、ユーザーが多彩な見方をしたくなったわけです」(堀内氏)
レポーティングで出力されたデータをカスタマイズして利用していたユーザー部門が、もう1段階上の自由度を求めた結果が、セルフサービスBIの需要になっているようだ。
これは世界的な流れだが、欧米ではこれまでIT部門が主導していたものを現場にも展開しようという形で伸びている一方、日本の場合はすでに現場がExcel等を利用して実現していたものを、より簡単に実現できるツールとしての需要だ。
ユーザー部門をIT部門がサポートすることがより良いデータ活用の条件
セルフサービスBIツールは、比較的安価な製品が多い。しかし部門の全員で利用する、全社的に導入するなど、大量導入を行うとトータルのライセンスコストが大きくなってしまう。そのため、レポーティングとの棲み分け、使い分けも考えて上手に導入したいところだ。
「セルフサービスBIツールはスモールスタートしやすいこともあり、ずっと伸びています。安価であるため、金額ベースの集計では目立った存在になりづらいのですが、需要は以前からありました」(堀内氏)
2016年版のマジック・クアドラントで「リーダー」になった企業が提供するツールは、いずれもデモンストレーションが上手く、見た目に自分もできそうだと感じられる製品だという。コストに加えてこういった部分も需要の高まりを後押ししているが、注意点もある。
「使い方は簡単ですが、データの事前加工は必要になります。たとえば製造時と出荷時、販売時でそれぞれ単位が違う場合、自分が見たいデータの単位に合わせて全体を整える必要が出てきます。こういったことは結局人がやるしかないので、一部製品にはそれを支援する機能が備わっています」と堀内氏は語る。
また、セルフサービスBIの普及によって、IT部門にはこれまでと違った対応が必要とされるという。それはユーザー部門のサポートだ。
「誰かが頑張って分析した結果、『それ、毎月頼むよ』と特定の人に負担がかかり続けてしまうことがあります。また、ユーザー部門それぞれが手元で分析を行うようになった結果、社内で同じ作業が重複しやすくなります。IT部門はユーザー部門の動きをしっかり見ながら、必要があれば毎月行うような作業はIT部門側で引き取る、重複している作業を巻き取るなど、これまでとは違った対応が必要になります」と堀内氏は指摘した。
手近な「金」を手に入れることに役立つセルフサービスBIツール
堀内氏は繰り返し「マジック・クアドラントを見て、右上(リーダー)のブロックにあるからよい製品だろう、ここから選ぼう、と安易には考えて欲しくない」と語る。
製品出荷数や機能だけでなくユーザーリファレンス等も考慮されるため、優秀な製品でもマジック・クアドラントに入っていないということは十分にありえるのだ。また、世界で2つ以上の地域で利用されていることという前提条件から、国産ツールなどはユーザーの評価が高くでも、選出されないという実態もある。
しかしマジック・クアドラントが現在の市場ニーズを強く反映したものであるのも確かだ。今後はより手元で積極的なデータ活用を行いたいというビジネスパーソンが増え、ツールを導入する企業は増えていくだろう。セルフサービスBIツールによる分析の分担や、社内でのデータサイエンティストの育成なども進むことが期待できそうだ。
最後に堀内氏は、「仮説を立てて分析し、OK/NGの見極めを繰り返すデータ活用は、金を探しているようなものです。データを絞ることは金のありそうな所に目星をつけて作業することと似ています。大量のデータは金山であり、金の延べ板ではないのです。金鉱は見た目では在処がわかりづらく、苦労をしてようやく少しの金を取り出します。世界を変えようという意気込みならそれも良いでしょうが、中小企業にとっては荷の重い話です。だったらもっと手軽に、金を含むと分かっている製品からの抽出を試みる方法も良いでしょうし、すでに貴金属として精製されているものを溶かして固め直すというやり方もあります」と、ビッグデータという形ではなく、自社の目的やビジネス規模に合わせて、手元にあるデータの組み合わせからセルフサービスBIを利用してデータ活用していくことの重要性を指摘した。