東北大学(東北大)は3月23日、低コストな高品質単結晶シリコンの製造方法を開発したと発表した。

同成果は、東北大学 金属材料研究所 結晶物理学研究部門 藤原航三教授、結晶材料化学研究部門 宇田聡教授、FTB研究所、産業技術総合研究所、福島再生可能エネルギー研究所 再生可能エネルギー研究センター 太陽光チーム 福田哲生招へい研究員、高遠秀尚チーム長らの研究グループによるもので、3月19日~22日に東京工業大学で行われた「第63回応用物理学会 春季学術講演会」で発表された。

単結晶シリコンの製造法であるCZ法は、石英ガラス製の円形るつぼで原料シリコンを融かしてシリコン融液とし、あらかじめ準備した細い棒状の単結晶をその表面に浸漬し連続的に上方へ引き上げることによって行うというものだが、シリコン融液は非常に活性であるため、接触した石英るつぼ壁を溶かし出してしまい、また融液は熱対流を起こしており、これが石英るつぼの溶解を加速させる。石英るつぼには酸素や重金属などの不純物が含まれるので、高品質の単結晶シリコンを製造するには、石英るつぼの溶解を抑制して不純物を減らした融液にする必要がある。従来の高品質化技術として、石英るつぼの外部から磁場を作用させて対流を抑止するMCZ法が知られているが、超伝導磁石の設備が必要なため、コストダウンを強く求められる太陽電池用には不向きであった。

今回、同研究グループは、磁場を作用させることなく、るつぼ内壁の表層シリコン融液をはじく特殊な処理を行った「溌液るつぼ」を用い、CZ法で溌液性が最も効果的に発現される結晶製造方法(LCZ法)を確立。これを用いて実用サイズの直径200mmの単結晶シリコンを製造することに成功した。同技術は磁場を用いることなく通常のCZ法でるつぼの溶解を抑止するので、より安価で高品質の単結晶シリコンを製造できるというメリットがある。

同研究グループは、LCZ法を用いることで、新規の投資をほとんどせずに石英るつぼと結晶成長条件を変更するだけで高品質の単結晶シリコンが得られるため、現在の標準型太陽電池の変換効率を向上できるとしており、今後は需要に応じて溌液るつぼの製造設備の拡充を行い、るつぼの低コスト化を図る予定であるという。

結晶製造終了後の従来の石英るつぼ断面(1)と溌液るつぼ断面(2)の比較。従来の石英るつぼでは融液との反応で石英が溶解して肉薄になるが、溌液るつぼでは溌液層の厚さがほとんど減少しない