東京都市大学は3月22日、宇宙用ロボットアームの無反動制御が軌道上での保守点検作業に適用可能であることを動力学シミュレーションによって検証し、従来の方法と比較して作業効率とエネルギー効率の面で非常に優れた性能を発揮することがわかったと発表した。

同成果は同大学工学部機械システム工学科の金宮好和 教授らの研究グループによるもので、6月に開催されるロボティクス・メカトロニクス講演会 2016 in Yokohamaで発表される予定。

宇宙環境における大型構造物の建造、人工衛星の保守・点検、宇宙デブリの回収などのミッションでは、軌道上ロボットの活用が期待されている。軌道上ロボットの中でも、人工衛星にロボットアームが搭載された浮遊ベースロボットは、1997年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が世界で初めて実験機を打ち上げたほか、2007年には米国国防高等研究計画(DARPA)が実験を行うなど研究が進められている。

浮遊ベースロボットの実用化に向けては、ロボットアームの動作により衛星本体に回転運動が生じ、地上基地間の通信障害の原因となることが課題となる。従来はリアクションホイールなどの姿勢制御装置を用いることで、ロボットアームの動作により生じる反動を補償し回転運動を抑制していたが、リアクションホイールは構造上大きな出力を得ることが難しく、ロボットアームを低速で動作させる必要があり、作業効率や緊急時の高速な回避動作などが犠牲となっていた。

衛星の姿勢変化が通信障害の原因となる

これに対し、衛星本体に回転運動を生じさせずにロボットアームを制御する無反動制御により、リアクションホイールを必要としない高速な動作を実現できることがJAXAの実験で確認された。ただ、無反動制御の利用においては、ロボットアームの運動可能領域を制限しなければならず、実作業での利用には事前準備が必要となるが、その手法は十分に確立されていなかった。

無反動制御を利用することで衛星本体の回転運動を抑制

今回の研究では、1997年からJAXAが実施した軌道上実験を参考に、無反動制御の利用に適した実作業の提案とその性能評価を行い、浮遊ベースロボットが頻繁に行う作業として、ロボットアーム手先に搭載されたカメラを用いた目視点検作業に着目し、無反動制御により実現する方法について検討した。

性能評価では、従来のロボットアームの制御方法と提案手法を同条件下において比較し、衛星本体に生じる姿勢変化量と運動エネルギーを評価した。

性能評価では、従来のロボットアームの制御方法と提案手法を同条件下において比較し、衛星本体に生じる姿勢変化量と運動エネルギーを指標として評価を行った。その結果、無反動制御を実作業で用いることで、姿勢変化を生じさせることなく同様の作業を遂行できることから、作業効率の改善が期待できることを数値シミュレーションで示すことができた。また、エネルギー効率についても、点検作業を複数の条件下で実行した際、リアクションホイールを用いた姿勢維持手法よりも平均で1000分の1程度にエネルギー消費量を削減できることを数値シミュレーションにより確認した。

研究グループは、これらの結果から、無反動制御を実作業に用いることで、現在利用されているリアクションホイールでは困難な高効率な作業動作の実現、大幅なエネルギーの削減が期待できるとしている。