東京工業大学は3月18日、水素の陰イオンであるヒドリド(H-)がイオン伝導する新物質を開発したと発表した。

同成果は、分子科学研究所 小林玄器特任准教授、東京工業大学大学院 菅野了次教授、京都大学大学院 田中功教授、高エネルギー加速器研究機構 米村雅雄特別准教授らの研究グループによるもので、3月18日付けの米科学誌「Science」に掲載された。

イオンが拡散することで電気伝導が生じるイオン伝導体は、二次電池や燃料電池の基幹材料として電極や電解質に用いられる。現在は、プロトン(H+)やリチウム(Li+)を伝導する物質が実用材料として開発されいるが、H-を電気伝導の担い手とするイオン伝導体を蓄電・発電反応に利用することができれば、高電位・高容量のエネルギーデバイスを実現できる可能性がある。

同研究グループは今回、La-Li系の酸水素化物La2LiHO3のLaをSrで置き換えると、H-濃度と結晶内の配位環境を制御できることを見い出し、原料を圧力媒体内に密閉してGPaオーダーの高圧下で熱処理する高圧合成法により、純粋なH-伝導体であるLSLHO(La2-x-ySrx+yLiH1-x+yO3-y)を開発した。

さらに同研究グループは同伝導体を固体電解質に用いた全固体電池を作製し、電気化学反応が可能であることを明らかにした。電池反応によって生じた生成物について、大型放射光施設「SPring-8」の粉末放射光X線回折装置で電極における水素の吸蔵と放出に伴う構造変化を観測したところ、放電時にTi+xH-+TiHx+xe-(負極)とTiH2+xe-+TiH2-x+xH-(正極)の電極反応が進むことが明らかになった。これは、TiH2から放出された水素がH-としてLSLHOを伝導しTi電極に吸蔵されたことを示している。

同研究グループは今回の結果について、LSLHOが固体電解質として機能することを実証しただけでなく、H-のイオン伝導を利用した新しい電気化学デバイスが創成できる可能性を示していると説明しており、今後はより伝導率の高いH-イオン伝導体の創成を目指して物質探索を進めるとともに、H-の酸化還元電位を活かした電池反応の構築を目指していくとしている。

LSLHOの結晶構造。H-含有量の増加に伴い、Liと陰イオンで形成される八面体内の配位環境が変化する