NTTデータ経営研究所は3月10日、SRIインターナショナル日本支社と共同で、第1回イノベーティブテクノロジーセミナー「経済価値から感性価値へ ヒューマン・デジタル・インターフェースが創る新たなビジネス」を都内で開催した。
このセミナーの中では、SRIインターナショナル ディレクターエドガー・カルンス氏(SRIインターナショナルプラットフォーム・インフォメーション・コンピューティングサイエンス)が「IoT時代におけるパーソナルな ユーザーエクスペリエンスの実現」と題して講演を行った。
SRIは1946年、米スタンフォード大学の研究機関として設立され、1970年に独立。約2,100人のスタッフがおり、iPhoneに搭載されているSiriを開発したことで知られている。
今後のUIはコンピュータが人間に合わせていく必要がある
カルンス氏は最近のコンピュータのUIについて、「マルチモーダル、センサー、ウェアラブルが登場し、UIは大きく変わったが、人間がコンピュータに合わせている点は以前と変わらない。いまはそれを逆にし、コンピュータが人間に合わせたらどうなるかを考えている」と語った。
同氏は、最近のユーザーエクスペリエンスのトレンドには「IoT」、「データ量の拡大」、「多様なフォームファクタの登場」、「各個人にパーソナライズされたデータ」の4つがあると指摘。
データ量の拡大では、現在のデータの9割はこの2年で作られたものだとし、多様なフォームファクタの登場では、スマートデバイス、ウェアラブルデバイス、自動車など、多様なデバイスが登場している点を説明した。
そして同氏はこれらの状況を踏まえ、「マウスやキーボードがなくなっていく中で、どうやっってコンピュータに指示を与えるかだ。タッチなども登場しているが、それだけでは不十分だ。もう一度、UIを見直す時期に来ている。コンピュータが人間のインプットを理解する会話型UIが必要だ。コンピュータが人間に合わせる必要がある」と語った。
会話型UIとしては、すでにiOSに搭載されているSiriがあるが、同氏はSiriについて、「初めて自然言語で会話ができるようになったすばらしい技術だが、今の技術には短所もあり、パーソナル化した関連情報の提供になっていない」と課題を指摘した。
同氏が言う"パーソナル化した関連情報の提供ができない点"とは、たとえば、「最後に受け取ったメール」と指示を出し、続けて「電話をする」と語っても、Siriは最後にメールを受け取った人に電話をするとは認識せず、「電話をする」をまったく新しい指示と受け取ってしまうことだという。
そのため、今後のUIには、「前の会話と関連性を持って理解する」ことや、「会話だけではなく人間の表情やジェスチャーも含めて理解する」こと、さらに「会話やタッチ、マウスなど複数のデバイス(UI)から入力される情報をあわせて理解する」こと、そして、「自ら個人的な状況を理解すること」の4つが必要だという。
"自ら個人的な状況を理解する"というのは、相手の理解度が低い場合はゆっくりしゃべったり別の言い方をしたりすることや、製品に詳しい人と、それほど詳しくない人を会話の内容から判断し、説明する内容を変えるなどの対応を行うことだという。
これらの実現をサポートするのが SRIが研究するVirtual Paersonal Assisitants(VPA)で、同氏は、VPAが深い理解を果たすためには、データとのインタフェースを持つことが重要だと指摘した。
人間と連動することでサクサク感が感じられる
セミナーにおいて続いて登壇したのは、明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科専任講師 渡邊恵太氏だ。同氏は「身体・道具・環境に融ける情報とインターネット -インターフェースデザインの新たなフェーズ-」というテーマで講演を行った。
同氏は、「自己帰属感」という馴染みのない用語でIoT時代のコンピュータUIを説明した。「自己帰属感」とは、道具が身体の一部として感じることで、コンピュータをまるで体の一部のように使いこなせるようになることだという。
渡邊氏によれば、「自己帰属感」には融合や統合性が課題となり、「サクサク感」というのが重要なファクターだという。「サクサク感」は、人間の動きに連動することで感じられるもので、「たとえば、iPhoneが登場したときにサクサク感が感じられたのは、画面が指の動きに連動していたからです。ただ、日本のメーカーはそれをアニメーションがあるからだと捉えてしまい失敗しました。アニメーションは身体と連動しないので、自己帰属感が感じられないのです」と説明した。
また、人間の動きに連動することで、質感も表現できるという。
たとえば、スマートフォンの液晶にテクスチャを表示させて状態で、さまざまな角度に傾けることに連動して、光の反射状況を変えることで、質感を表現できるという。
そのほか、同氏はUIとは別に、今後はネット上のデータを利用して、実際の動作を具現化する必要があると指摘した。
「たとえば、インターネット上で料理のレシピを検索して情報を表示させることはできますが、実際に料理を作るのは人間です。これは、本を見ながら料理をすることと何も変わりません。現在は、インターネット上にデータをアップロードすることはできますが、それらのデータを活用することはできていません。情報を道具化することがIoTにおいては有用です」と、現在のIoTは情報を取得することが中心で、データを利用して実体化することはできないないという課題を述べた。
そこで同氏はデータを理解して、それをモーターにやらせることを考えていると語り、具体的に同氏が作成した試作品を紹介した。同氏が紹介した試作品は、料理のレシピを読み取って、そのレシピに記載された分量に合わせ、自動的に容量を変えることができる計量スプーン。
実際のスプーンは以下の動画を参照。
そして同氏は、「今はコンピュータのインタフェースを考えるのではなく、インターネットのインタフェースを考える時代だ」と述べた。