慶應義塾大学(慶大)と京都工芸繊維大学は3月11日、ポリエチレンテレフタレート(PET)を分解して生育する細菌を発見し、その分解メカニズムの解明に成功したと発表した。
同成果は慶應義塾大学理工学部の吉田昭介 助教(現:京都大学工学研究科ERATO秋吉プロジェクト研究員)と宮本憲二 准教授、京都工芸繊維大学の小田耕平 名誉教授と木村良晴 名誉教授らの研究グループと、帝人、ADEKAの共同研究によるもので、3月10日発行の米科学誌「Science」に掲載された。
PETは石油を原料に製造され、ペットボトルや衣類などの素材として活用されている。PET製品の一部はリサイクルされているが、その多くは廃棄されている。これまでPET製品は自然界では生物によって分解されないと考えられてきたが、もしPETを栄養源とする微生物を見つけることができれば、その生物機能を利用することで、低ネルギー型・環境調和型の「PETバイオリサイクル」が実現すると考えられている。
今回の研究では、自然界からPET分解菌を探索するために、さまざまな環境サンプルを採取し、PETフィルムを主な炭素源とする培地に投入し、培養を行った。その結果、PETくずを含む堆積物を投入した試験官においてPETフィルムに多種多様な微生物が集まり、分解している様子を発見。この微生物群の中から強力なPET分解細菌「Ideonella sakaiensis 201-F6株(201-F6株)」を分離することに成功した。この201-F6株はPETを分解するだけでなく、PETを栄養源として増殖することもわかった。
次に、201-F6株がPETを分解する仕組みを調べるために、PETを分解する酵素に関するゲノムの解読を試みたところ、PETを加水分解することが報告されている酵素と類似した配列をコードする遺伝子を発見した。その遺伝子産物であるタンパク質の機能解析を行った結果、PETを加水分解する能力があることが判明した。また、この酵素はこれまで報告されてきたPET加水分解酵素よりもPETを好んで分解し、PETが頑丈となる常温で高い分解活性を持つことがわかった。研究チームが「PETase」と名付けたこの酵素は、201-F6株が自然界でPETを栄養源として生存するための「武器」となっている可能性があるという。
研究チームは、PETaseがPETを加水分解しMHETを主に生成し、それ以上反応が進まない現象に着目。MHET加水分解酵素の存在を予想し、201-F6株の網羅的な遺伝子解析を行った結果、PETaseと発現が類似した遺伝子を見出した。この遺伝子がコードするタンパク質の機能解析と行ったところ、MHETを迅速に加水分解する能力があることがわかり、この新酵素は「MHETase」と命名された。
以上の研究結果から、201-F6株はPETaseとMHETaseという2種類の酵素によりPETを効率よく、単量体であるテレフタル酸とエチレングリコールに分解することが明らかとなった。生成されたテレフタル酸とエチレングリコールは、同菌によりさらに分解され、最終的に炭酸ガスと水になる。この段階からは多くの微生物が分解することが報告されており、PETを物質循環に組み込む生物学的なルートが存在することが明らかとなった。
同研究グループは、今回見出された微生物由来酵素の活性や安定性の強化が実現すれば、理想的なPETリサイクルの実現が近付く、としている。