慶應義塾大学(慶大)は3月10日、ニューカレドニアに生息する「道具を使うカラス」のくちばしが、道具の使用に適した特殊な形態に進化していることを発見したと発表した。
同成果は同大大学院社会学研究科の松井大氏、同大文学部の伊澤栄一 准教授、同大理工学部の荻原直道 准教授、山階鳥類研究所の山崎剛史 研究員らと、オークランド大学、コーネル大学、マックスプランク研究所との国際共同研究チームによるもの。3月9日に「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
ヒト以外の動物の道具使用は、霊長類で研究が進んでいるが、近年鳥類の一部においても道具使用が進化していることが発見されている。中でもニューカレドニアに生息するカレドニアガラスは、鉤爪状に整形した小枝や葉をくちばしで咥えて木などにいる虫をとって食べることで知られる。しかし、一般的にカラスのくちばしは下向きに曲がっていて小枝を顔の正面で安定して咥えるには不向きな形をしており、なぜカレドニアガラスが道具を使用できているのかは明らかになっていなかった。
今回の研究では、カレドニアガラスをはじめとするカラス10種類とキツツキ1種の標本を使用し、CT撮像によってデジタル3D化した頭部形態を比較する解析を行った。その結果、カレドニアガラスの下くちばしは「しゃくれ」上がっていることが特徴で、これによってくちばしが顔の正面に向かってまっすぐに伸び、かつ上下のくちばしのかみ合わせが平面をした形になっているため、道具を「握る」のに非常に適していることがわかった。一方、ほかの9種のカラスのくちばしは、程度の差こそあれ下向きに曲がっていた。
同研究グループは、同成果はカレドニアガラスの道具作成・使用が鳥にとっての手ともいえるくちばしの特殊な形態に支えられている可能性を強く示すもので、霊長類とは進化的に離れた鳥類にも、ヒトの道具作成・使用とそれに適した手の形態と同じような関係が、進化の共通原理としてはたらいていることの裏付けだとしている。また、カレドニアガラスのくちばしの形態が偶然生じたのか、あるいは道具使用とは異なる役割として備わっていたのかについては、今後さらなる解明が必要となる。