防災のために巨大な防潮堤を建設する際にも生態系への配慮が必要と考えている人が多いことが、東北大学、京都大学、九州大学の研究グループが行った全国の沿岸部住民調査で明らかになった。
東北大学大学院生命科学研究科の中静透(なかしずか とおる)教授らの研究グループは、全国の沿岸自治体に居住する20~60代の男女を対象に防災と生態系保全に関する意識調査を実施し、約7,500人から回答を得た。
調査は通常のアンケート形式ではなく「住んでいる自治体で津波対策として防潮堤のかさ上げ計画が進んでいる。環境アセスメントの結果、周辺の野生動植物がいなくなり植物も消失することが判明したため自治体が計画を変更することにした」という仮想の状況を調査対象者に提示。その上で生態系への影響(種の数の減少)が異なる複数案を示して「好ましい」と判断する案を選んでもらった。
回答解析の結果、防潮堤のかさ上げ(防災機能の強化)と引き換えに許容できる沿岸動植物の種数の減少率の上限は約19%でそれ以上の影響を与えるかさ上げはすべきでないと、多くの人が考えていることが判明。また、同じ沿岸部に住んでいても野生動植物が生息する沿岸地域を頻繁に訪れる人ほど生態系保護を重視し、現在の住居が高潮や津波被害を受けるリスクが高い、と考えている人ほど防潮堤のかさ上げを重視していることがはっきり示されたという。
2011年3月11日の東日本大震災では、大津波が岩手県宮古市の田老地区にあった高さ約10メートルの防潮堤を大津波が乗り越えて約180人が犠牲になった。大震災の後、国は約1兆円を投じて東北地方沿岸部の約600カ所に総延長400キロの防潮堤を整備する計画を進めている。
しかし同じ地域の住民でも防潮堤建設の是非や高さのほか、地域コミュニティづくりや景観、生態系保護との兼ね合いなどで意見がまとまらないケースが増えている。特に防潮堤の高さについては「高いと津波流入まで時間が稼げるから安心だ」「高いと危機感がむしろ薄れて避難が遅れる」「刑務所のような塀の内側に住むのは耐えられない」などといった異論が出て議論が紛糾することが多い。その結果建設が延期されたり当初計画より高さを低く変更する例も出ている。
研究グループは「防災対策を進める際にも生態系に配慮することの重要性を示した」としている。この研究は文部科学省「気候変動リスク情報創生プログラム」の一環として行われた。
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