サイボウズは2月29日、2015年12月期(2015年1月1日~12月31日)の決算および2016年の事業戦略に関する説明会を開催した。
2015年の同社の売上高は70億1300万円(前年比17.6%増)、営業利益は-3億8100万円、経常利益は-3億3800万円、当期純利益は-2億1700万円となり、「創業以来初の赤字となった」と、同社代表取締役社長の青野慶久氏はコメントした。とは言え、もともと2015年の業績予想は、営業利益・経常利益・当期純利益が-8億円と赤字設定されていた。
この結果について青野氏は、「-8億円と設定したことで、思い切ってクラウドに投資した。長期的にみると、十分な利益」とした。同社は昨年、積極的にクラウド関連サービスの広告宣伝を行い、前年比2億6600万円増の17億4600万円を広告費に投下している。
また、青野氏は「裏目標」として、自身が社長であるうちに「赤字を出したかった」とも語った。
「サイボウズは創業からずっと黒字の堅い経営をしてきた。このまま黒字体質のままバトンタッチしたら、サイボウズは黒字にしないといけないという神話ができてしまうと嫌だったので、創業者も普通に赤を出すという実績をつくっておきたかった」(青野氏)
2015年はクラウド事業が加速
2015年の同社の活動方針には、「クラウド事業の加速」「エコシステムの推進」「企業基盤の強化」が挙げられていた。
クラウドについては順調に推移し、現在売上全体の39%を占め、クラウドサービス「cybozu.com」の売上は約27億円(前年比160%)で、有料契約者数は1万3000社を超えているという。
エコシステムについては、現在公式パートナーは230社となり、前年から26社増加しているとのこと。2015年は「クラウド事業の成功者をつくること」が目標とされており、シダックスのレシピ管理ツールや京王電鉄バスの遺失物管理ツールなど、大手企業における実績をパートナー企業であるジョイゾーが成果を残した。
企業基盤の強化については、東京・大阪でオフィスを移転し、今年の3月上旬にはベトナム支社の移転も予定されている。そのほか、「新しい働き方」の実践企業として情報発信を進めてきた1年となった。
2016年は「多重下請け構造」の変革に挑戦
2016年の業績予想は、売上高80億円、営業利益・経常利益・当期純利益1億円が示された。
2016年の注力サービスとしては、業務アプリケーション構築クラウド「kintone」が挙げられた。同サービスは、プログラミングすることなく、業務に必要なアプリがつくれるクラウドサービスとなっている。これにより、従来のシステム開発工程で必要とされてきた、仕様書作成やハード・ソフトの手配などを省いて、すぐ開発に着手できるものとなっている。
このkintoneで、青野氏が「仕掛けたいこと」としたのが、「日本の多重下請け構造の変革」だ。
従来、システムを開発する際は、大手SIerが受注し、下請け企業に仕事が流されてきた。これにより、下請け企業は費用や環境などが厳しい状況で、仕事が続けられてきた。
「これはまさに日本のIT業界の大きな問題。しかし、皆問題だと思っているのに、誰も解決できずにきた。これをわれわれは技術で解決したい。これまでプロセスをふまないとつくれなかったようなものを、お客さんと話しながらつくって、すぐ使ってもらい、気に入らなければ直していく、これをぐるぐるまわしていくプロセスに変えていけたら、多重下請けがなくなる時代をつくれるのではないだろうか」(青野氏)
そのほかにも、kintoneを活用して、「クラウド&IoT時代への社会変革」「日本発グローバル・ソフトウェア企業」も目標に掲げられた。
青野氏は、「クラウド&IoT時代にふさわしい価値」として、企業の中だけでなく、地域での情報共有など、地方創生のインフラとして、kintoneを提供していくとしている。
またグローバルでは、現在USでの導入事例が増えていることから、「kintoneをUSで販売できる手ごたえを実感している」という。事例の中には、某グローバルIT企業が、店舗のマネジメントシステムとして、アメリカ、日本、オーストラリア、韓国、シンガポールで導入していたり、某日系大手商社が、アメリカ拠点間での社内情報システムのサービスデスクで導入していたりするとのことだ。
「kintoneをリリースした約4年前にも言っているが、私の残りの仕事人生はkintoneにかかっている」(青野氏)