「この世の中はどのようにできているのだろう?」 ――だれもが一度はこの問いについて考えたことがあるのではないだろうか。
これまで科学者たちは、素粒子のようなミクロの世界を支配する量子論や、宇宙のようなマクロの世界を支配する相対性理論を構築することで、この世の成り立ちを少しずつ明らかにしてきた。しかしどうやら、両者の理論には矛盾する点があるようなのだ。科学者たちは、これらの理論を統合した「万物の理論」を作ろうと日々試行錯誤しており、現在、そのひとつの候補として「超弦理論」が提唱されている。
今回、日本科学未来館を中心に製作された「9次元からきた男」は、難解な理論である超弦理論の可視化に挑んだ3Dショートムービーで、9次元からきた謎の男「T.o.E.(トーエ)」と共に、普段我々が体感できないミクロからマクロまでの世界を旅していくストーリーとなっている。
ミクロの世界では、粒子が突然生まれては消えたり、粒子の位置が不確定で確率的に決まったりするなど、我々の日常生活からはイメージしにくい現象が起きている。本作品では、非日常的でイメージの難しい世界観が見事に可視化されているため、量子論になじみのない初学者の方でも楽しむことができるだろう。特に、加速器の中で粒子と一緒に加速されて、衝突により素粒子が散乱するシーンは圧巻だ。また、地球から太陽、太陽系、銀河へと、宇宙誕生の138億年前まで時間をさかのぼるシーンでは、重力に支配されているマクロな世界のイメージをつかめると共に、宇宙の誕生にもミクロな世界を支配する量子論が関係していることに気付かされる。
ほかにも、電子軌道や素粒子のひとつであるクォークの描写など、細部までこだわりぬかれているため、一瞬たりともスクリーンから目が離せない30分となっている。それもそのはずで、本作品は超弦理論の第一線で活躍している理論物理学者 大栗博司氏、映画監督の清水崇氏、ビジュアル・ディレクターの山本信一氏を中心に、企画から約3年間の月日をかけて作り上げられてきたもの。実際の描写には、ヒッグス粒子が発見された欧州原子核研究機構(CERN)やハーバード大学の宇宙進化シミュレーションのデータが使われるなど、科学的な正確さが十分に確保されている。同館の科学コミュニケータは、「仮説だけではなく、研究機関からデータをもらい可視化を実現していることが特徴。科学の美と新しいプラネタリウムの可能性を感じてほしい」とコメントしている。
T.o.E.との次元を超える旅を終えた後には、すべてのモノが”ひも”からできていると考える「超弦理論」の世界観について、直感的にイメージすることができるようになっているはずだ。
3Dドーム映像作品「9次元からきた男」
公開:2016/4/20
企画・製作・著作:日本科学未来館
ドームシアター鑑賞料:大人300円、18歳以下100円 ※入館券とのセット購入のみ。事前予約はこちら
日本科学未来館公式サイトより:とあるカフェの中に紛れ込んでいる、何かが違う男。その名はT.o.E.(トーエ)。男は科学者たちに追われている。あと一歩で捕まりそうになったそのとき、男はおもむろに姿を変えた。そして、含みのある問いかけと共に私たちを不可思議な旅へと誘う。とてつもなく小さなミクロの空間からマクロのスケール、そして現在からはるか昔、宇宙誕生の瞬間まで、変幻自在に時空を移動してゆく男。導かれるままについて行ったその先には、私たちの常識を覆すような情景が広がっていた……。T.o.E.とはいったい何者なのか? 科学者たちは、T.o.E.をつかまえることができるのか――?