宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は2月17日、X線天文衛星「ASTRO-H」を搭載したH-IIAロケット30号機の打ち上げを実施した。衛星は無事に分離し、既報のように、「ひとみ」と名付けられた。同日、打ち上げ後の記者会見が開催されたので、本レポートではその内容についてまとめてみたい。

「ひとみ」という名前を発表したJAXAの高橋忠幸・ASTRO-Hプロジェクトマネージャ(左)

「ひとみ」(ASTRO-H)は、「はくちょう」(CORSA-b)、「てんま」(ASTRO-B)、「ぎんが」(ASTRO-C)、「あすか」(ASTRO-D)、「すざく」(ASTRO-EII)に続く日本の6機目のX線天文衛星である。観測性能が大幅に向上しており、銀河団やブラックホールなどを調べることで、宇宙の成り立ちの解明や、極限状態での物理法則の検証に挑む。

現時点で、衛星の状態は正常。ロケットから分離後、太陽電池パドルの展開がすでに確認されており、順調に運用が行われている。今後は、3軸姿勢制御の確立、観測装置の立ち上げ、伸展ベンチの展開などを行っていく予定だ。なお投入軌道については、翌18日に発表があり、ほぼ計画通りの高度、傾斜角、周期であることが明らかになっている。

JAXAの高橋忠幸・ASTRO-Hプロジェクトマネージャは、「長い年月をかけて作ってきたので感慨深いものがあるが、衛星はこれからが大変。いまは成功に向かって集中している」とコメント。今後始まる観測については、「新しい種類の天体が見えてくると非常に楽しい。我々が思ってもみなかったような現象が出てきて欲しい」と期待した。

ひとみを打ち上げたH-IIAロケットは、これで30機中29機成功(失敗は6号機のみ)となり、成功率は96.7%まで向上。連続成功の記録もH-IIA/B両ロケットを合わせて29回まで伸ばした。

今回の打ち上げは、H-IIAロケットにとっては30機目という節目。今まで日本のロケットは、N-I(7機)、N-II(8機)、H-I(9機)、H-II(7機)と、10機も続かずに廃止になることが多く、この30機というのは突出している。10日のY-1ブリーフィングでMHIの平嶋秀俊MILSET長が「正直30機も上げることは無いだろうと個人的には思っていた」と述べたほどだ。

MHIの阿部直彦宇宙事業部長は、「30機まで重ねられるのは、アリアン、アトラス、デルタなどの老舗以外では、世界的にもそう多くは無い。我が国の技術力が世界的に認められる1つの指標では」と自信を見せ、「信頼性の高さを武器にしながら、世界の市場で戦っていきたい」と意気込みを述べた。

またJAXAの奥村直樹理事長は、「初号機の打ち上げが2001年。30号機の達成に15年かかった。この間、携わる人も変わり、様々な環境変化もあった中で、確実に技術を伝承し、高い成功率で推移してきたことは、大変誇っていいと思う」と感想を述べた。

MHIの阿部直彦宇宙事業部長

JAXAの奥村直樹理事長

30機まで続いたH-IIAであるが、このままでは抜本的なコストダウンが難しいため、現在、日本は新型基幹ロケット「H3」の開発を進めているところだ。H3について問われた阿部事業部長は、「H-IIAから高い信頼性を引き継がなければならない。しかしコスト的に頑張らないといけないので、変えるところを見極める必要がある」と難しさを語る。

新型ロケットの運用開始当初には、トラブルが起きやすい。打ち上げ輸送サービスを途切れさせずに提供するためには、新旧ロケットの移行を慎重に行う必要がある。旧型ロケットを廃止した後、新型ロケットに何か問題が見つかれば、打ち上げがストップしてしまうからだ。

先日の宇宙開発利用部会において、MHIからは、2020年度のH3試験機打ち上げ後も、H-IIA/Bの運用を継続し、2023年度に終了するという案が提出された。これについては、阿部事業部長から「2023年ころの切り替えを考えると、そろそろどのミッションをH-IIA/Bで打ち上げ、どのミッションをH3にするかということを考えないといけない。議論のベースとして提示したもので、あれで決定したというわけではない」との説明があった。

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