Analog Devices(ADI)の日本法人であるアナログ・デバイセズは2月17日、事業戦略説明会を開催し、同社の代表取締役社長である馬渡修氏が2015年度の業績と2016年度の事業方針を発表した。
2015年度の業績からみていくと、ADI(ワールドワイド)の売り上げは昨年度度比で20%増加し34億ドル(約4000億円)を記録した。地域別で見ると米州が前年比55%増と成長を牽引した。2015年に買収したヒッタイトの製品群が航空・防衛分野で強みを発揮したほか、スマートフォン関連が好調だった。また、中国も前年比11%増と二桁成長を達成したが、こちらでは基地局関連が好調で、馬渡氏によれば同国では政府系企業での設備投資が活発だったという。
日本では前年比4%増と一桁増に留まったものの、2年連続の成長となった。オートモーティブ、産業・測定器の市場は好調だった一方で、コンスーマー市場でマイナスを記録した。欧州/中東/アフリカではギリシヤの経済危機、フォルクスワーゲンの排気ガス問題などが市場に大きな影響を与えたが、航空、産業機器、オートモーティブ市場での成長により前年比2%増と売り上げを伸ばした。唯一マイナス(前年比-5%)を記録した日本と中国を除くアジア太平洋地域では、メインターゲットである台湾・韓国のメーカーの低迷が影響した。
製品がデザインインされた地域別でみると米州が売上高の42%を占め、以下、欧州/中東/アフリカが27%、中国が15%、日本が9%、アジア太平洋が7%となった。また、市場別に見ると産業・計測が44%、コンスーマが21%、通信が20%、オートモーティブが15%だった。日本の市場別では産業・計測が52%、コンスーマが21%、オートモーティブが14%、通信が13%という割合になり、ワールドワイドと比べて通信の割合が低い点について馬渡氏は「日本はキャリアが少なく、サプライヤもそんなにいない。国内の基地局向けの需要が多いため」だと説明し、今後の課題とした。
オートモーティブ市場は好機到来か
2016年度の事業方針としては産業計測、通信インフラ、オートモーティブ、ヘルスケア、ライフスタイルという5つの市場に注力し、コンバーターやRF/マイクロ波、高性能リニア、MEMS/センサをコア技術とし製品開発を進めていく。
まず産業市場では、FA/IoT分野、エネルギー、化学/医用計測器、航空宇宙/防衛分野での成長を見込んでおり、こうした市場に対しヒッタイトの製品を加えた包括的なソリューションが強みとなると考えている。通信インフラ市場では前年度に引き続きデータセンタに向けた100G光モジュール関連が好調さを維持するほか、馬渕氏は「400Gの開発案件がかなり出てきている。近い将来、400G光モジュールが市場に投入されるだろう」との見解を示した。
オートモーティブ市場では自動運転、CO2削減、ヒューマン・マシン・インターフェース分野での成長を目指す。同分野では2016年1月にはフォードがADI独自の車載オーディオバス技術「A2B」を採用したことでTier 1企業が追従することが予測されるなど、追い風が吹いている状況だ。
ライフスタイル市場は従来コンスーマと呼んでいた領域を指す。上述の通り、日本ではこの分野があまり元気では無いものの、馬渡氏は「高品位カメラやハイエンド・オーディオなどの市場が新しく芽生えてきている」と語り、今後新規アプリケーションを模索していくとした。ヘルスケア市場で同社はCT向けソリューションで高いシェアを誇っており、特にCTの高精度化および被曝量の低減に貢献する「ADAS1256」という商品が強みとなっている。また今後は血液採取を必要としない非侵襲生体モニタリング技術、医療システムのスマート化などにビジネスチャンスを見出しているという。
また、馬渡氏は市場横断的な注力テーマとして「IoT」と「5G」を挙げた。IoTでは機器の不具合検出・予防保全ソリューションを提供することを目指す。同社はIoTの処理プロセス(検出・計測・情報化・伝送・分析)の要求に応える広範なポートフォリオを有しているが、情報化・分析の部分が十分とは言えないため今後の強化ポイントだとする。具体的な取り組みとしては、ADIがアイルランドに保有する工場のスマート化を進めているほか、IoTプラットフォーム「ThingWorx」を保有するPTCと協業して情報化(見える化)の部分を強化するなどしている。
「5G」は多くのアプリケーションでデータの大容量化、高速通信、低遅延化などのメリットをもたらすと考えられている。同社はこれまで無線周波数帯でのビジネスをメインとしてきたが、ヒッタイトの買収によって5Gで想定される周波数帯領域を全てカバーできるようになり、広範なポートフォリオを武器に5G技術の開発に活かすとした。
また、今後投資を増やしていく分野としては、スマート・マシーン、スマートヘルスといった分野に加えて、アルゴリズムなどソフトウェアにもリソースを投下していく。さらに、社内外におけるビジネスインキュベーションや大学との連携など、新しいビジネスや先進技術の開発に向けた予算配分も行っていく。