Artificial Intelligence(AI)、Internet of Things(IoT)、Augmented Reality(AR)・・・と、最新のデジタルテクノロジーに関する情報が流れ込んでくる。世界のCEOたちにとっては、これらのキーワードが、SFの世界が近くなったと微笑んでばかりはいられなくなっている。

IBMレポート「破壊者との競争と供創」

近年デジタルテクノロジーの進化がビジネス世界を大きく左右しかねない時代に突入しはじめたためだ。IBMが先月公開したレポート「破壊者との競争と供創」では、世界各国のCEOたちが最新デジタルテクノロジーが続出する昨今の状況を重大な岐路のひとつと捉えていることがよくわかる。IBMが2003年から実施し続けている経営層スタディ・シリーズは、延べ28,000名を越える世界の経営者たちからの声を反映しているレポートだ。今回は、日本を含む世界818名のCEOの声が反映されている。

自社に影響を及ぼす重大な外的要因として認知されはじめた「デジタルテクノロジー」


同社レポートより

マクロ経済、市場の変化や法規制と昔からCEOが見るべき外的要因は非常に多い。従業員や株主などステークスホルダーたちからの期待を一身に担う立場にある彼らの責任はとても重い。好むとこの好まざるにかかわらず情報に敏感になるのは、当然のことなのだ。

CEOたちに聞いた自社に影響を及ぼす重要な外部要因のなかで「テクノロジー」(2004年の時点では6位であった)が、2012年より3年連続で1位となっている。2010年あたりまでは、「市場の変化」や「人材・スキル」がCEOたちの最も高い関心を示す要因だった。これらを追い抜く形で「テクノロジー」が経営に与える影響が外部要因として持ち上がってきた。また、今後3~5年で事業を変革するテクノロジーの筆頭にはモバイル・ソリューションが挙げられており、続いてコグニティブ・コンピューティングが並んでいる。スマートフォンは世界規模での台数の爆発的な増加やスマートフォン経由でのトラフィックやECにおける購買増加傾向と、予測できるものだが、その次に現れているのがコグニティブ・コンピューティング。

同社Webに設置してある「IBM×シュタインズ・ゲートの特設Web

Cognitive Computingとは経験的な知識に基づいた推論を用いて問題解決をコンピューターで実現するという意味で、レポートを公開しているIBMのワトソンもこれにあたる。「IBM×シュタインズ・ゲート」の特設Webサイトでは、"あらゆる情報から学習し、自然な対話を通じて、意思決定を支援する"とコグニティブ・コンピューティング"を人気アニメを通じてわかりやすく説明している。実際に同社は、医療や教育などこのテクノロジーに積極的に関わるが、在庫管理やファイナンス、医療や教育をはじめ、人間にとって自然言語が何よりも重要なファクターである以上、その応用範囲は人間にとっても果てしなく広くなる。

「破壊者との競争と供創」では、卓越した財務業績を達成している企業群を"さきがけ企業"のCEO(4%)、イノベーションにおいて他社に追随する企業群を"マーケットフォロワー"のCEO(26%)として抽出してその動向を各所で示すが、"さきがけ企業"のCEOの半数以上がモバイル・ソリューションとコグニティブ・コンピューティングをビジネスを変革する重要テクノロジーとして挙げている。

競争の限界と供創

デジタルテクノロジー時代は、競合を一気に抜き去る可能性がある。各CEOも重要であるが故にその破壊力には脅威を感じている。カナダの金融系企業CEOの「業界の外から参入してくる新たな競合が気になる。彼らは我々の顧客基盤を侵食し、市場を破壊していく」というレポート内で紹介されている言葉が象徴的だ。デジタルテクノロジーが"破壊者"になりうるという認識は、先進的なCEOたちの間でも強い。

同社レポートより

今後3~5年の間で顧客接点などの分野でデジタルテクノロジーの活用が進むとみているCEOは、60%(2013年)から2015年には82%へと伸びている。しかし、これらを単独で提供できる企業は限られており、複数の事業体による業界の垣根を越えたオープンネットワークである「エコシステム」(ビジネスの世界での生態系)が構築されはじめている。モビリティ・ソリューションによる個人自動車保有の減少の可能性を見越した自動車業界の動き、金融業界のフィンテック企業との提携の動きなどに言及しながら、"単独で行う場合をはるかに凌ぐ到達範囲を実現する"とその意義を強調している。

しかし、エコシステムは他業界からの侵入により競合が増加し、虫食いにされてしまうという危惧が拭えない。さきがけ企業のCEOたちにもその懸念はある。では、彼らはいかに今後のエコシステムを捉えているのだろうか?

さきがけ企業のCEOたちは、エコシステムを新たな市場として考えている。自社単独では困難だった市場を形成し、従来とは異なる新しい収益モデル構築の場として捉えている。エコシステムが、ターゲット顧客、地域市場、新たな流通チャネルとこれまでの境界線を再定義し、新たな顧客接点が確立され、これを前向きに捉えている。「コントロールされた失敗は好ましいものである」という英国の金融サービス企業CEOの言葉が、エコシステムに対するスタンスを端的に表している。

いくつものチャンスが現れては、切磋琢磨を繰り返す。失敗を最小限に抑え、そしてそれを糧にしながらチャレンジできる市場が無数に増えていくのであれば、ユーザーやクライアントにとっても、常に利便性のあるサービスが向上していくことを意味する。このような世界が、目前に迫ってきているのかもしれない。