昨年、日本で急激に注目されるようになった「FinTech」。しかし、その言葉自体はよく耳にするものの、その実態はつかめていないという人も多いのではないだろうか? そもそも、なぜこんなにも「FinTech」が騒がれているのか、疑問を感じている人もいるかもしれない。

こうした中、2月1日に三菱地所と電通、電通国際情報サービスは、FinTech企業に向けたコワーキングスペースとして、「The FinTech Center of Tokyo Fino Lab(フィノラボ)」を丸の内にある東京銀行協会ビルに開設した。

「Fino Lab」は、机やイスなどの什器や通信設備を企業に提供するシェアオフィスとなっている。日本のビジネスの中心地として、多くの金融機関が集まる丸の内エリアで、FinTechスタートアップ企業の支援とビジネスの創出を目的に設立された。

また注目すべきは、FinTech業界のプロフェッショナル有志個人が集結した金融革新同友会「Finovators」も、活動の拠点を「Fino Lab」に据える点である。FinTechスタートアップ企業の課題の一つに、金融関連の法律における知識の不足が挙げられる。「Finovators」には、代表理事を務める弁護士の増島雅和氏をはじめ、公認会計士や起業家など、さまざまな方面で活躍するプロフェッショナルが参加しており、FinTechスタートアップ企業は彼らに相談をしながら、事業を進めていくことができるような体制となっている。

一体なぜ、このような場所を設立したのだろうか? また、なぜそうまでしてFinTechに力を入れるのだろうか? その解について、増島氏は「日本の金融が世界でどう戦っていけるのかが、日本の国際的な競争力を維持するために不可欠だから」と説明した。

FinTechスタートアップ企業が世界へ羽ばたけるように

「FinTechの活動はITのスタートアップとは異なる部分が大きく2つある」と増島氏は言う。

金融革新同友会Finovators 代表理事 増島雅和氏

「1つは、規制が厳しい分野であるということ。大学を卒業したばかりのITエンジニアがすぐ始めて、ビジネスをスケールさせていくことが難しい領域だ。これを支える専門家なり集団が、規制をふまえて付き合い方を考えながらやっていく必要がある。もう1つは、金融という業態そのものの特徴がある。金融は産業にとっての血液に相当する部分であり、国にとっては非常に大事な源泉である。日本が国際的な競争力を維持するためには、金融が強靭であることが大前提だ。FinTechスタートアップに対する取り組みは、通常のスタートタップよりも大きなかたちで、プロフェッショナルが関わり、政府を巻き込み、大企業を巻き込んで活動していくことによって世界に太刀打ちしていくというシナリオが大事」

増島氏は、FinTechスタートアップが次々と起業し、世界で通用するプレイヤーに成長させるためには、「エコシステムの創造と拡大が重要」だとし、これを「Finovators」のミッションとして掲げている。具体的な活動については、「FinTechスタートアップへのメンタリング」と「パブリックセクターとの連携/提言」となっている。

「FinTechスタートアップへのメンタリング」については、主に次の6つの項目が挙げられた。

  • 許認可・ライセンス
  • 事業構想・計画
  • 資金調達/資本政策
  • 市場、需要家、生活者
  • 公共セクターへの要請
  • 海外展開、エグジット

「パブリックセクターとの連携/提言」では、自民党FinTech推進議員連盟などを通じて、規制に関するや提言や陳情を行っていくという。そのほかにも、金融庁などの関連官公庁との連携や、FinTech先進各国の関連セクターとの協業なども挙げられた。

これまでは"コネ"のある人しか情報収集できなかったファイナンス領域

「Finovators」の一員である、マネーフォワードFinTech研究所 所長の瀧俊雄氏は、FinTechによって変化が期待できる社会の課題について次のように述べた。

マネーフォワードFinTech研究所 所長 瀧俊雄氏

「FinTechだけではもちろん解決できないが、課題解決の必要条件をいくつか満たしていけると思うことがある。20年後に今の金融の世界はどうなっているのか。少子高齢化社会の日本のアセットはどうあるべきなのか。人材の国際競争力も高めていかないといけない。限られた時間、限られた人間、限られた日本の個人金融資産をどうやって有効活用していくのか。どれも非常に深い問いではあるが、FinTechは一つの光を照らせるものだ」

また「Finovators」での活動について瀧氏は、「起業の相談を受ける中で、『これって適法でしょうか?』といった問いが、ファイナンスの領域ではたくさんある。法律上明確でなくても、『これって許されていないことだったりしますか?』といった観点は非常に重要となってくる。今までは、こういった相談を持ち込む先が、コネのある人しかなかった。4年前にマネーフォワードを創業する際に『こういう場所があったらよかったのにな』と思うものを、ファウンダーの一人として追求していく」と語った。

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現在FINO LABには、6社入居が決まっているという。東京銀行協会ビルのシェアオフィスは275坪で席数は75席。5~10名用の共用会議室が12室、6~8名用の来訪者会議室が3室、最大80名程度収容可能なイベントスペースなどが用意されている。

シェアオフィスのイメージ

これからどのようなスタートアップ企業が集まり、どのようなイノベーションが生まれるのか、今後の動向に注目したい。