昨今、通信環境のインフラ整備やインターネット広告市場の拡大にともない、広告配信の技術も格段に進歩してきています。そして、高い技術力と表現方法を用いた、これまでにないリッチな動画広告が、潜在ユーザーを獲得する施策として注目を集めています。
今回は、ネット広告ではリーチが難しい、新規ユーザー獲得のための「リッチ動画広告」の導入事例を参考に、潜在層のリーチを拡大する施策を紹介します。
リターゲティング広告のリーチ先は顕在ユーザーのみ
新規ユーザーは、主に、顕在層、準顕在層、潜在層の3つに分類されます。
現在、ネット広告は「リターゲティング広告」が主流。リーチ・獲得できるのは、主に、顕在層と準顕在層のユーザーです。
1996年にYahoo!JAPANが国内初の広告枠販売を開始してから20年。検索連動型(リスティング)広告、コンテンツ連動型広告など、効果的な広告配信が模索されてきました。
分析の対象は、ユーザーが入力したキーワードや開かれているページのコンテンツ内容・テキスト。広告主たちは、より関連度の高い広告をユーザーの画面に表示させようと、しのぎを削ります。
しかし、検索広告をいくら表示しても、その効果は限定的なものでした。
ページに合わせて広告を表示する方法で獲得できるのは、そこに訪れる時点で「既に商品・サービスに興味があるユーザー」だけなのです。
既に興味を持っているユーザーの取り合いでは、マーケットの拡大にはつながらず、上限のある数字を各社で分配するだけになってしまいます。
市場の奪い合いに疲れ切った各社が次に目を向けたのは、「潜在ユーザー」でした。
「潜在層」にリーチする「リッチ動画広告」
リッチ動画広告とは、動画にゲーム性を持たせたり、インタラクティブな仕組みを取り入れたものです。これまでのネット広告よりもクリエイティブな表現で、潜在層の心をくすぐり、ユーザーの欲求を喚起します。
GPSの位置情報など、ユーザーの様々な行動データを分析することで、よりパーソナルな心情に訴えかけられるようになったことも、潜在層へアプローチする追い風となっています。
Panasonicの場合
ふだんプレミアムエアコン:#003たいせつなのは、家族が「集う」時間。インタラクティブムービー
Panasonicでは、テレビCMほどの予算がない小型家電にリッチ動画広告を活用しました。
「豪華であることや贅沢することだけでなく、なんでもない日常にあるくつろぎや和みなどに価値がある」がコンセプトのインタラクティブ動画です。
家事を取り巻く環境や社会的認識が変化し、男性も家事をするのが、当たり前になってきました。
「ふだんプレミアム」シリーズでは、俳優の西島秀俊さんをキャスティング。洗濯機、冷蔵庫、エアコンの3つの製品を主軸にしたショートムービーを展開しています。
「家電といえば女性」のイメージもまだまだ強い中、料理や洗濯、子供とのお留守番を自然に行う西島さんの姿に、心動かされた男性ユーザーも多いはずです。
たいせつなひとに、いつも Iron short story [母の想い、娘の想い篇]
アイロンを通じて、母の思いと娘の思いがクロスするショートムービー。ほかにも「母の上京篇」「思春期篇」があり、いずれも強く印象に残る文脈でブランドメッセージを伝えています。
衣類スチーマー NI-FS360 男だってシワ取れビアン シワトリ篇
普段、アイロンに馴染みのない男性の心を掴むのに、ミニコント風の動画は、有効な施策です。
このスチーマーは、TVCMの予算が確保できない中、幅広い年代の男性からも支持され、発売からこれまでに約30万台を売り上げています。
リッチ動画広告のメリットとデメリット
メリット ・テレビCMでマスを狙えなくても、拡散されれば多くのリーチも可能。 ・テレビCMで訴求しづらい10代、20代にリーチしやすい。 ・テレビではわからない、ユーザー像がある程度分かるため、クリエイティブを最適化しやすい。
デメリット ・スマートフォン視聴が増加しているが、スマートフォンの端末にアピアランスが左右される。 ・クリエイティブの制作コストが、高額。 ・動画再生までの待ち時間が少しでも長いと人は離脱してしまう。 ・効果について、明確な指標がない。
まとめ
リッチ動画広告では、これまでリタゲ広告でリーチしづらかった潜在層へのアプローチが可能です。
テレビ広告ほどの予算はない。先行企業のある分野で顧客開拓したい!といった悩みを解決してくれるのが、リッチ動画広告です。
各企業のマーケターの方は、メリット・デメリットを踏まえたうえで、リッチ動画広告の運用を検討してみてはいかがでしょう。
(文:朝比奈 直樹)