アンシス・ジャパンは1月28日、マルチフィジックス解析ツール「ANSYS」の最新バージョン「ANSYS 17.0」を発表した。同日より販売を開始する。
ANSYSは、構造・熱流体・電磁界・回路・システムなどのさまざまな物理現象やそれらを組み合わせた連成問題を、目的に合わせて柔軟にシミュレーションすることができるソリューション。
アンシス・ジャパン 代表取締役の大古俊輔氏は、今回の新バージョンについて「IoT、インダストリー4.0と、産業界に大きなイノベーションの波がきており、今までの開発やマニュファクチャリングのやり方を見直す必要が出てきている。そこで、重要になってくるのがシミュレーション。ANSYS 17.0は、解析業界におけるひとつのイノベーションであると確信している」と自信を見せる。
以下、同バージョンについて、それぞれの領域の製品における特徴を一部紹介する。
構造解析製品
プリント基板の詳細シミュレーションでは、モデルの簡略化を行わなければ設定と解析を現実的な時間で行えないことが多く、シミュレーションの精度と品質が犠牲になっていた。同バージョンでは、ECADのデータから、構造有限要素解析モデルに配線情報を直接マッピングすることができるため、忠実度の高いプリント基板シミュレーションを素早く構築できるようになった。またECADからのインポート機能が強化されたことで、パワーインテグリティ解析やエレクトロニクス冷却解析に構造解析についても容易に統合することが可能となっている。
また今回、ANSYS HPC(High Performance Computing)17.0において、演算コアを追加することによって、有限要素解析シミュレーションの10倍以上の高速化を実現。コア数を1000基まで増やしても、性能を維持することができる。
さらに、同バージョン製品からパッケージ化され、「Mechanical Pro」、「Mechanical Premium」、「Mechanical Enterprise」という3つのライセンス形態に分類された。既存のアドオンライセンスはこれらのうちのどこかに入る形になるという。Mechanical Enterpriseでは疲労解析、陽解法動解析および機構解析を含む構造解析機能と、最適化機能、設計ワークフローを効率化するカスタマイズ機能が新たに追加されている。
流体解析製品
熱流体解析ソフト「ANSYS Fluent」では、並列化効率を上げることに成功。Fluentソルバーは90%の効率で、12.9万基の演算コアへのスケーラビリティ性能を持つことが実証されている。
また、ワークフローとメッシングの改善によって、初心者やFluentをあまり利用しないユーザーでもたやすく習得できるようになった。リボン、ショートカットアイコンの追加など、GUIが更新されたことで、より素早く、直感的に操作を行うことができる。
エレクトロニクス製品
インダストリー4.0やIoTを実現するにあたっては、無線で繋がるためのアンテナが重要となってくる。フルウェーブ3次元電磁界解析ツール「ANSYS HFSS」では、模範解析モデルを自動的に生成できる機能が新たに追加されたことにより、アンテナ設計の効率的な設計・解析が行えるようになった。アンテナについて専門知識のないエンジニアであっても、最適な設計と電子機器への実装を行うことが可能となっている。
またアンテナ・ワイヤレスシステムにおいては「3Dコンポーネントの隠蔽・暗号化」が新たなパラダイムとなっているが、ANSYS HFSSの3Dコンポーネント機能では、モデリングツールで作成した部品ライブラリを利用して、暗号化によって形状、材料などの設計情報を隠蔽し、サプライチェーン全体でコンポーネントを共有することができる。
また「ANSYS Maxwell」に新たに導入された特許出願中のTDM(時間分割法)によって、過渡磁場シミュレーションの演算能力と演算速度が飛躍的に向上。モータ、トランスの設計時に、高精度なEMシミュレーションを行って設計を最適化することができる。
なお同バージョンにおいては、クリティカルシステムのシステム設計から、形式言語によるソフトウェア開発、アプリケーションライフサイクル管理を構築するツール群「SCADE」の強化も行われた。
米ANSYS Director of Product Marketing バリー・クリステンソン氏が、「ここ10年でANSYSのポートフォリオは、構造、流体、電磁気、半導体、ソフトウェアというように大きく広がってきた。複数の物理領域をカバーして全体的な幅広い改善が行われたのが17.0。さらに大きなポイントとしては、それぞれ個別の技術を開発しただけでなく、より統合された形で密接に連携できるようにした点」であると説明しているとおり、今回のバージョンアップでは、それぞれの分野について大幅な性能向上が図られ、また連携が強化された形となる。