産業技術総合研究所(産総研)は1月25日、人の動きや呼吸を見守る非接触式の静電容量型フィルム状近接センサーを開発したと発表した。

同成果は、同研究所 フレキシブルエレクトロニクス研究センター 先進機能表面プロセスチーム 野村健一 研究員、牛島洋史 研究チーム長 兼 同センター 副研究センター長、知能システム研究部門 スマートコミュニケーション研究グループ 鍛冶良作 主任研究員、小島一浩 研究グループ長、島根県産業技術センター 有機フレキシブルエレクトロニクス技術開発プロジェクトチーム 岩田史郎 主任研究員、今若直人 プロジェクトマネージャー、次世代パワーエレクトロニクス技術開発プロジェクトチーム 大峠忍 プロジェクトマネージャーらの研究グループによるもので、1月22日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。また、1月27日~29日に東京ビッグサイトで開催される「プリンタブルエレクトロニクス2016」にて関連技術が展示される予定。

今回開発されたフィルム状近接センサーは、フィルムのおもて面と裏面に電極が設置されたコンデンサー構造になっており、電極間に交流電圧をかけて用いる。おもて面と裏面の電極サイズが同じ場合、発生する電気力線は電極間に閉じ込められる傾向にあるが、電極サイズが異なると周囲に電気力線が漏れる。この状態で人がセンサーに近づくと、電気力線の一部が人の方向に向くため電極間の静電容量が変化し、人の接近を検出できる。この際、電気力線が床材やベッドマットなどで遮蔽されない周波数(今回は200kHzを使用)の交流電圧をかけると、センサーが「物体の裏側に隠れている状態」でも、おもて側での人の接近を検出できる。

(a)フィルム状近接センサー (b)畳ベッドの畳裏に張った様子

同センサーのように両面に電極を持つ構造を作製するには、まず、電極の材料となる導電性のインクをおもて面に印刷し、その後加熱してインクを焼成したうえでシートを裏返して裏面に印刷し、さらに裏面のインクを焼成するという手順が考えられるが、この場合、時間がかかる加熱焼成を2回も行う必要がある。そこで今回は、同研究所が開発したスクリーンオフセット印刷技術を利用。同技術では、簡単にフィルム両面に電極パターンを形成することができる。

また、フィルム状近接センサーを畳ベッドの裏側に貼り付け、被験者が畳ベッド上に横たわった状態で、吸い込み3秒間、吐き出し3秒間の周期で呼吸をしたところ、呼吸の周期に合わせてシグナルが変化しており、寝ている人の呼吸を的確に検出できることがわかった。

今後、同センサーから集めた測定データをもとに、自宅での介護・見守りに向けて事故や病気の予兆を捉える技術を確立していくために、島根大学医学部附属病院 礒部威 教授と関連技術について実証試験を行う方向で検討を開始しているという。

(a)ベッドセンサーとして使用する際のイメージ図 (b)ベッド上で人が周期的に呼吸した際のセンサーの静電容量値