発足1年で50社以上のパートナーが加盟
ルネサス エレクトロニクスは1月20日、都内で「第1回 R-INコンソーシアム フォーラム」を開催した。R-INコンソーシアムは2015年2月に設立され、産業分野に向けてルネサスの提供する産業用イーサネット搭載マイコン「R-IN32シリーズ」や、SoC「RZ/T1」を活用したソリューションを提供することを目的に活動を進めてきた。
加盟パートナーは当初は7社であったが、2016年1月20日時点で53社へと増加している。第1回となる今回のテーマは「第4次産業革命への挑戦 次のフェーズへ」というもので、ルネサスそのものの産業分野への取り組みの紹介のほか、顧客企業やパートナー企業による業界動向および最新技術に関する講演、パートナー企業各社によるデモ展示などが行われた。
ルネサスとしての第4次産業革命の捉え方について、「産業機器に搭載されているコンピュータを制御して、工場内の機器同士をつなげることまでは、これまでの技術でできているが、それを工場間の接続といった地球規模でできるようにするのが第4次産業革命。これを実現するためには、ルネサスだけでは不可能で、パートナーたちと協力して、一緒になってソリューションとして提供していき、ユーザーを全力で支えていくこと」と語るのは同社グローバル・セールス・マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション統括部 パートナービジネス推進部 担当部長の吉岡桂子氏。
注:吉岡氏の「吉」の字は正しくは土の下に口となります。
R-INシリーズおよびRZ/T1シリーズは、一部の産業用プロトコルやリアルタイムOS(RTOS)の命令セットをハードIP化することで、処理速度の向上が図られており、従来、通信処理などをソフトウェア的に行っていたCPUの負荷を低減させることが可能。そうした空いたリソースについては、別のさまざまな活用法が考えられ、実際にルネサスでも那珂工場におけるプラズマエッチング工程におけるディープラーニングの試験的な実施などを行っている。一般的にディープラーニングでの制御というと、クラウドと接続して、ビッグデータはデータセンター側で処理して、それをエッジノード側にフィードバックして制御を行う、というイメージだが、今回の試験では、現場のデータを表に出したくない、という製造業特有のニーズを踏まえ、製造装置内部のみで活用可能な軽量なディープラーニング技術をパートナーと開発したとする。
また、R-INコンソーシアムが、通常のパートナーアライアンスプログラムと比べて異なる点は、カスタマが受託開発会社を選ぶことが多い点。産業機器メーカーにとって、産業用イーサネットの搭載は必要ではあるものの、そこが他社との差別化要因になることはなく、注力すべき点は別に存在していることから、そうした開発は他社に任せる、といった流れができつつあるという。「規格やそれまでの実績などを加味して、受託企業を選定するだけでもカスタマにとっての負担となる。そこをルネサスがパートナーを通じて、課題に見合った企業を紹介することで、速やかな開発につなげることができるようになる。そうした意味では、1年やってきて、こういった案件はこういった企業にお願いするのが良いというのが見えてきて、緩やかな企業という枠を超えたそれぞれの案件に対する最適なチームというものが複数できつつあるという状況になってきた」(吉岡氏)。
展示会場で見たパートナー同士の連携
こうした吉岡氏の話を裏付ける姿が、同フォーラムの展示会の各所で見ることができた。例えばインターファクトリーパートナーズのブースでは、ベルチャイルドと連携して、インターファクトリーパートナーズ開発のEtherCATデータ収集装置と、ベルチャイルドの遠隔地監視システムサービス「Secure Micro Cloud iBRESS」を組み合わせた「EtherCAT to Cloudシステム」の展示を行っていた。このEtherCATデータ収集装置は、ネットワーク上にパッシブノードとして存在するため、マスターやスレーブのCPUに影響を与えずに、ネットワークの接続デバイスのI/Oデータを可能とするもの。既設のネットワークの間にアドオンさせるだけで利用が可能で、かつソリューションとしては、セキュアなネットワークによって現場から収集したビッグデータをWebブラウザを用いて見える化することが可能になるため、カスタマはアプリケーションの設計などに注力することが可能になるという。また、その性能としても、半導体製造装置などで求めらえる5msでの制御にも対応しているとのことで、リアルタイム性も確保しているとする。
このほか、イー・フォースのブースでは、JSLテクノロジーと共同で、2枚のRZ/T1の開発ボードを用いて、1枚をマスター、もう1枚をスレーブとして、スレーブからPCにイーサネット経由でPCにデータを送信するという「RZ/T1を使ったEtherCATおよびORiNとのネットワークデモ」を行っていた。同社によると、組み込み用プロセッサ+RTOSで初めて工場情報用ミドルウェア「ORiN(Open Resource interface for the Network)」を実装したとのことで、これにより工場内の各種装置に対し、メーカーや機種の違いを気にしないで、ORiNからの機器制御やOPC-UAを介してのクラウド側での情報収集を安価かつ高速に実現することが可能になったとする。
イー・フォースの「RZ/T1を使ったEtherCATおよびORiNとのネットワークデモ」。左のRZ/T1ボードがマスター、右のRZ/T1ボードがスレーブで、スレーブ側からPCにイーサネット経由で情報が送信される仕組みとなっている |
また、日立超LSIシステムズはルネサスと共同という形で、R-INのソリューションと開発中の製造CIMソリューション「VCIM」および、製造装置とリアルタイムに双方向に情報を連携させることが可能な「VCIMBox」を組み合わせた設備の見える化デモを行っていた。これは、R-IN32エンジンから送られてくる各設備の電力データや稼働状況などをVCIMBoxが収集し、VCIMと連携させることで、遠隔地での設備状況の確認などを実現しようというもの。既設の設備に手を加えることなく、稼働状況などを遠隔地で監視することが可能なため、工場の統合オペレーションを容易に実現できるようになるという。こちらについて同社は、2016年中には提供を行いたいとしており、すでにアーリーアダプタによる評価も進めているという。
加えて、ルネサスそのものもJSLテクノロジー、日本システムウエア(NSW)、アルゴシステム、テセラ・テクノロジー、acontis technologies、イー・フォース、デスクトップラボの6社と協力した「R-IN/RZ/T1を用いたミニ工場デモ」を展示していた。これは、4台のセンサノードの処理をRZ/T1で、通信のスレーブをR-INで、ソフトウェアRTOSと、R-INエンジンによるハードウェアRTOSで2台ずつ分割して行い、それぞれ指定された色のボールであった場合、そのボールを回収する、というもの。ルネサス1社だけでは開発するのにかなりの時間が必要であったが、パートナーたちの協力により実現できたという。
なお、ルネサスとしては、今後もパートナー数は増やしていきたいとしており、新規パートナーとの面談を進めている。そうした新規パートナーについて吉岡氏は、「会いたいと思っているだけではダメで、この企業と付き合いたい、という思いをもって勧誘している」とのことで、自社製品を売り込む以上に、産業界の活性化に向けて、ルネサスとして邁進していくことを強調していた。