横浜市立大学(横市大)は1月20日、細胞質のタンパク質合成を制限することにより細胞老化を抑制するメカニズムを発見したと発表した。
同成果は、横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 博士後期課程3年 高氏裕貴氏、藤井道彦 准教授、鮎澤大 名誉教授らの研究グループによるもので、1月5日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
動物細胞においては、種々の老化ストレスにさらされると肥大化・扁平化をともないつつ細胞増殖を停止し、最終的に分裂能力を失う「細胞老化」と呼ばれる現象がある。近年、細胞老化は生物個体の老化の原因のひとつであることが明らかになりつつあり、たとえば、老化したマウスには老化した細胞が多く存在するが、老化細胞を選択的に除去することで、マウスの老化が遅くなることが報告されている。
今回、同研究グループは、細胞老化の共通の特徴であるDNA複製の遅滞と細胞の肥大化・扁平化に着目し、「細胞老化の不均衡増殖モデル」を細胞老化の普遍的モデルとして提唱した。細胞はさまざまな障害を受けるとDNA複製を停止させるが、同モデルでは、この状態が長く続くと、タンパク質の過度な蓄積が起こり、細胞膨張と核膨張が起こる。次いで核膜とヘテロクロマチン複合体の崩壊が起こり、分裂能力の喪失や老化特異的遺伝子の発現が誘導される。
同研究グループは、ヒト正常およびがん細胞を用いた解析から、細胞質タンパク質合成の制限が細胞の種類に関係なく不均衡増殖を解消し、細胞老化を抑制することを見出した。この制限はヒト正常細胞の分裂寿命を顕著に延長しただけではなく、細胞老化により分裂を停止した細胞の増殖を再開させることができたという。
さらに、タンパク質合成の制限が個体の老化に及ぼす影響を、モデル生物である線虫C.elegansを用いて調べたところ、タンパク質合成の制限は、線虫の平均寿命および最大寿命を延長させ、個体レベルでの老化防止にも有効である可能性が示された。
今後の課題は、細胞質タンパク質合成の制限により、ヒトなどの高等動物の老化防止を実現できるかどうかであり、そのためには細胞質タンパク質合成をターゲットとした老化抑制剤の探索や開発を進める必要があると同研究グループは説明している。