京都大学(京大)は1月7日、今までX線でしか観測できないと考えられていたブラックホール近傍からの放射エネルギーの振動現象を可視光で捉えることに成功したと発表した。

同成果は同大 木邑真理子氏、磯貝桂介氏、加藤太一 助教、上田佳宏 准教授、野上大作 准教授らの研究グループによるもの。1月6日(現地時間)に英国科学誌「Nature」の電子版で公開された。

同研究グループが今回観測したのは、2015年6月中旬から7月初旬にかけて急激な増光を示したブラックホール連星「はくちょう座V404星」という天体。「はくちょう座V404星」はブラックホールまたは中性子星(主星と呼ぶ)と、普通の星(主系列星: 伴星と呼ぶ)がお互いの周りを回っているX線連星の中でも、アウトバーストと呼ばれる不定期な増光現象を起こすX線新星であり、正確に距離がわかっているブラックホールの中では地球に最も近いブラックホールを主星に持つ天体として知られていた。

はくちょう座とその中のブラックホール連星「V404星」の場所 (C)京都大学

今までの天文学的な常識を覆す成果

変動が激しい時期の可視画像データの比較の図。白い丸の中の星が「はくちょう座V404星」。およそ30分から1時間おきくらいに明るさが大きく変動していることがわかる。(C)京都大学

今回発生したアウトバーストでは、京大を中心に活動してきた国際変光星観測ネットワークVSNET teamなどを通して世界中で行われた大規模な国際協力可視測光観測によって、ブラックホールX線新星のアウトバーストにおいては過去最大の可視測光データを得ることに成功。得られたデータを解析した結果、ブラックホール近傍から出る光の変動を可視光で初めて捉えることができた。

ブラックホールは一般的に光さえも吸い込む真っ黒な穴であるため、そのような天体からの光を目で見ることはできないと考えられていたが、今回の成果はブラックホールの「またたき」を、数十cm程度の望遠鏡を使えば直接目で観測できる機会があることを示唆するものだという。

また、今回の研究では、このような光度変動が今まで他のX線連星で観測されていたときの光度よりも10分の1以下の、非常に光度が低い時期にも起こっていたことも判明。ブラックホール近傍から出る激しい光の変動は、今まで光度が高いときにしか観測されておらず、理論も、光度が高いことを条件とするものしか提唱されていなかったため、同研究グループはこの結果について「今までの天文学的な常識を覆すものである」と説明している。

同研究グループは今後、数年以内に本格稼働を予定している同大学の3.8m望遠鏡や、2016年2 月に打ち上げ予定のX線天文衛星「ASTRO-H」を用いたX線連星の観測も視野に入れ、次にX線新星のアウトバーストが起こったときには、今回のアウトバーストの観測で実現しなかった分光観測など、口径の大きな望遠鏡の利点を生かした観測も行うとしている。