基礎生物学研究所と生理学研究所は12月24日、温度によってオスとメスが決まる「ミシシッピーワニ」の性決定の仕組みを解明したと発表した。
同成果は、基礎生物学研究所 分子環境生物学研究部門/総合研究大学院大学の大学院生 谷津遼平 氏、宮川信一 助教、荻野由紀子 助教、井口泰泉 教授、生理学研究所 細胞生理研究部門 齋藤茂 助教、福田直美 氏、富永真琴 教授、米サウスカロライナ医科大学 河野郷通 助教、Louis J. Guillette Jr 教授、Innovative Health ApplicationsのRussell H. Lowers 博士、北海道大学 勝義直 教授、鳥取大学 太田康彦 教授らを中心とする研究グループによるもので、12月18日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
ヒトを含む多くの動物は、性染色体の組み合わせなどといった遺伝的な要因によって性が決まるが、ワニやカメなど一部の爬虫類では、卵発生中の環境温度によって性が決まる「温度依存型性決定」があることが知られていた。たとえば、ミシシッピーワニは、33.5℃で孵卵するとすべてオス、30℃ではすべてメスになる。
今回の研究では、ミシシッピーワニの卵発生中の胚がどのように外部温度を感じるのか、温度受容因子の実体の探索とその仕組みの解明を目指し、温度を感じるセンサータンパク質である「TRPイオンチャネル」を環境温度を感じる分子の候補として解析を進めた。
この結果、ワニの性決定時期の生殖腺では、受容温度域が異なる5種類のTRPチャネル遺伝子が働いており、なかでもTRPV4というTRPチャネルが一番顕著に存在することがわかった。TRPV4チャネルは哺乳類では30℃から34℃付近の温度を受容することが報告されており、ワニの温度依存型性決定と関連する温度域に相当している。
そこで実際にTRPV4チャネル遺伝子をワニからクローニングし、どのような温度域で活性化されるかを調べたところ、ワニのオスが産まれる温度付近で活性化されることがわかった。また、野生のワニの卵を採取して、TRPV4チャネルの阻害剤あるいは活性化剤を塗布し、オスになる温度とメスになる温度で卵を育て、数週間後に性分化への影響を調べたところ、TRPV4チャネルの活性を操作することで、特にオス化に重要な遺伝子の発現が変化することが明らかになった。さらに、オス産生温度で孵卵しても、TRPV4チャネルの阻害剤を塗布すると、メス化した個体が認められたという。
同研究グループはこれらの結果から、ワニの性決定においては、TRPV4イオンチャネルが環境温度を感じる実体として関与すると結論づけた。今後、動物の性決定様式の多様性や、環境と生物の間の相互作用を考えるうえで、発生学・生態学・環境学に大きく貢献できるとしている。