世界の半導体産業の再編劇は、Broadcomを買収したAvago Technologiesや、Freescale Semiconductorを買収したNXP Semiconductor、Fairchild Semiconductorを買収したON Semiconductorといった大手だけにとどまらない。中小の半導体メーカーもやはり生き残りをかけてM&Aを仕掛けている。MicroSemiがPMC-Sierraを、Dialog SemiconductorがAtmelを、Microchip TechnologyがMicrelをそれぞれ買収している。

その1つ、MicroSemiが買収したPMC-Sierraのストレージ製品担当のディレクタが来日した際に、同社の新製品と、今後の方向性などの話を聞いたので紹介したい。知名度が今ひとつ高くないMicroSemiはアナログおよびミクスドシグナル製品でさまざまな企業を買収し、成長してきた。買収する企業は利益率が良く、これからも成長が見込めるメーカーだ。2015年末における売り上げ見通しでは、MicroSemiの売り上げ13億ドルと、PMCの同5億ドルを合算すると、18億ドルとなり、アナログ・ミクスドシグナル半導体メーカーでは第10位に入る。

PMCの強みは、ストレージ製品。元々PMCは2010年6月に旧Adaptecを買収、Adaptecが持っていたストレージ製品を手に入れた。2014年のPMC売上額5.3億ドルの内、72%がストレージ製品で、残りは光通信、ワイヤレスインフラ製品となっている(図1)。Adaptecは古くはSCSIなどのボードで知られるメーカーであり、PMCはファブレス半導体メーカーであった。しかし、ストレージ製品の知名度はAdaptecの方が高かったため、AdaptecのブランドはPMCに買収されても消えなかった。例えば、PMC-Sierraストレージ製品部門のスタッフの名刺には「adaptec by PMC」というロゴを載せている。PMCの中でもAdaptecの存在は極めて大きいことになる。

図1 PMC-Sierraの会社概要 (出典:MicroSemi、PMC-Sierra)

PMC-Sirraのストレージ製品の特長は、システムとボードを理解しているので、チップとシステム設計を最適化できることだ。12月頭に発表した、データレート12Gbpsと高速のSAS/SATAホストバスアダプタ「HBA1000シリーズ」は、IOソリューション製品であり、大容量のストレージ製品をこのHBAが制御する。

HBA1000の特長は、従来のIOコントローラと比べ、高速でデータの制御を行えるのに対して、消費電力が低いこと。例えば、同社のテストでは、Intelのチップセットに比べ、ランダムリードが85%高いIOPS(Input Output per second)で、ランダムライトが35%高いIOPS、リード&ライトのシーケンシャルリードスループットは4.3GB/sと2.7倍、シーケンシャルライトスループットは3.8GB/sと2.9倍も速い。平均消費電力は、例えば内部8ポートを持つHBA 1000-8i製品は9.4Wと競合製品の13Wより低く、内部16ポートを持つHBA 1000-16i製品は11.8Wで競合の27Wよりもずっと低い。つまり、データセンターでこのボード製品を使う場合には、消費電力が低いため、運用コストを下げることができるようになる。

HBA1000は、ストレージに接続するポートの数でバリエーションがある。基本的に8ポートを内部、外部、16ポートを内部、外部向けに持つ。どの製品も最大256台のデバイスをサポートできる。

優れた性能/消費電力を得ることができたのは、独自開発したPMC SmartIOCチップによる。この製品は40nmのファウンドリプロセスで設計したもの。最先端の16/14nmプロセスと比べ、デザインルールは緩いが、それは問題ではない。制御ボードシステム全体を理解しているため、システムの内、何をチップ化し、何をソフトウェアで動かし、拡張性をどう持たせるか、といった点を抑えているため、チップを最適化できた、と同社Channel and Data Center Marketing部門のディレクタであるTroy Winslow氏(図2)は語る。

図2 PMC-Sirra Channel and Data Center Marketing部門のディレクタTroy Winslow氏

このPMC-Sirraを買収したMicroSemiは、アナログとミクスドシグナル半導体を手掛けるファブレスだが、2015年4月にネットワーク用半導体、クラウドベースソリューションのVittesseを買収、2010年11月には不揮発性FPGAのActelを買収している。日本でその知名度が低い理由は、米国の軍用半導体を50年以上も手掛けており、加えてカスタム仕様のASICで日本の顧客が少なかったためでもある。

ただ、最近はIoT時代になりインターネットにつながるデバイスが増えてくるようになるとセキュリティが最大の関心事となる。MicroSemiはセキュリティの高い軍用半導体の経験を踏まえ、SCoE(Security Center of Excellence)と呼ぶ、セキュリティサービスを始めた。自動車用のサイバーセキュリティやスマートグリッド、財務向けクラウドコンピューティング、工場のオートメーションなどを対象にする。不正改ざん防止、暗号化技術、セキュアなイーサネット接続、IPファームウェアなどの技術を使い、リスク評価や保護計画サービス、セキュリティ技術サービスなどを提供する。

アナログやミクスドシグナル製品のカスタム企画設計によるASICだけではなく、カスタム設計のサービスも行っている。ミクスドシグナル半導体SoCやFPGA、革新的なパッケージ技術に関してもサービスを行う。いずれもカスタム製品が多い。製品市場別では、MicroSemiが持つ従来の航空・宇宙、通信、国防・セキュリティ、工業用の4分野に加え、ストレージ分野が加わることになる(図3)。なお図3では、航空・宇宙と国防を一緒にしている。

図3 MicroSemiはPMCを買収することでストレージ製品を手に入れた (出典:MicroSemi)

MicroSemiがPMC-Sirraを買収することで11月に両社は合意し、米国時間12月16日からPMC-Sirraの株主に対して株式交換の手続きを始めたと発表している。Winslow氏によると、恐らくPMC-Sirraの名前は消えるが、Adaptecのブランドは残るだろうという。株式交換が終了するのは2016年1月14日予定だが、証券取引委員会(SEC)への届け出も必要で、買収が完了するのはすべての手続きが終わってからになる。