学術界で高い評価を得た生命科学・医学系研究者の論文は、産業界でも同様に高い評価を得るという関連があることが、依田高典(いだ たかのり)京都大学大学院経済学研究科教授、福澤尚美(ふくざわ なおみ)科学技術・学術政策研究所研究員らによって明らかにされた。
依田教授、福澤研究員らの研究は、大学の優れた研究成果が特許化やライセンシング(特許実施許諾)を通じて産業界でどのように応用されるかを、計量経済学的に解明するのが狙い。まず、文部科学省の補助金事業「21世紀COEプログラム」の生命科学と医学系分野に採択された研究者の論文数、引用数を、国際的出版社エルゼビア社の抄録・引用文献データベース「Scopus」を使用して調べ、総被引用数が多い順に上位100人の日本人研究者を抽出した。
これらの研究者が1996-2009年に責任著者として発表した論文4,763本の被引用数を調べたところ、最も多かったのは山中伸弥(やまなか しんや)京都大学iPS細胞研究所長・教授が2006年に米学術誌「Cell」に発表したiPS細胞に関する論文で、被引用数は2,670回に上る。被引用数が多い上位10論文のうち、2本が山中氏、3本が審良静男(あきら しずお)大阪大学特別教授・WPI免疫学フロンティア研究センター拠点長の免疫学に関する論文で、数人のトップ研究者が牽引(けんいん)していることが読み取れた。
また、Scopusと欧州特許庁の特許データを用い、特許への被引用数を調べた結果、最も多かったのは山中氏が07年にCellに発表したiPS細胞に関する論文で、441回引用されていた。被引用数が多い上位10本のうちに、山中氏の論文が3本、審良氏の論文が2本含まれている。山中氏が06年と07年にCellに発表した論文と、審良氏が2000年に英科学誌「ネイチャー」に発表した論文は、論文・特許双方の高被引用上位10本に入っていた。
100人全員の論文について論文-特許被引用と論文-論文被引用の関係を調べた結果から明らかになったのは、論文から論文への被引用数が100増えると、特許への被引用数が3.6増えるという有意な関係。研究者たちは、学術界で質が高い論文は特許にもより多く引用されることが分かった、と結論づけている。
また、対象となった各研究者の総額研究費と論文の被引用数の間には逆U字の関係がみられ、研究費は年間1億9,000万円の場合に、最も論文の質が高くなるという興味深い結果も得られたという。
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