スパコンの学会は次世代を担う若い世代を育てるという活動も熱心に行っている。学生や若い研究者に発表の場を提供するポスター発表は、SC15では135件が発表され、78件であった正式の論文発表の1.7倍の発表件数であった。
さらに若い世代にHPCに興味をもってもらおうという活動が、「Student Cluster Competition(SCC)」である。SCCは6人の学部大学生(あるいは高校生)がチームを組んで、クラスタシステムを作ってHPCプログラムを実行させるというチャレンジを行い、その技術を競う。米国では、SCCに出場したという経歴は就職でもプラスに働くそうである。
SCCとはどんな競技か
SCCでは、与えられたHPCの実アプリケーションを実行する。実行に使うクラスタシステムは、チームが自由に設計して良いが、2つ大きな制約がある。1つはAC 120V、最大13Aのコンセント2個で動作させなければならない。これはサーバだけでなく、インタコネクトや冷却の機器の電力を含んだ全システム(展示用の大型ディスプレイと各人のPCは除く)の消費電力を3120W以下に抑える必要があるということである。なお、コンセント当たり1560Wを超えても直ちにブレーカが落ちるわけではないが、主催者側は1秒から数秒の間隔で電流値をモニタしており、超過が観測されるとその度に、得点を減点することになっている。
もう1つの大きな制約は、HPCプログラムを実行するシステムを自前で調達する必要があり、システムを貸与してくれるスポンサーを見つける必要があるという点である。いくら良いシステムを設計しても、それが手に入らないと絵に描いた餅である。また、スポンサーにはSCが開催される会場までの交通費や期間中の滞在費、機器の輸送費なども負担して貰う必要がある。
SCC15の出場チーム
そして、6人のチームメンバーを集めて、クラスタシステムの構成などを示して参加申請を行う。それらの申請を審査してSCで行われるコンペに参加するチームが決められることになる。このプロセスを経て、SC15におけるSCCに参加したのは、以下の9チームである。
- Arizona Tri-University Team (United States)
- Illinois Institute of Technology (United States)
- National Tsing Hua University (Taiwan)
- Northeastern University (United States)
- Pawsey Supercomputing Centre (Australia)
- Technische Universitat Munchen (Germany)
- Tsinghua University (China)
- Universidad EAFIT (Colombia)
- University of Oklahoma (United States)
国別で言うと、米国が4チームである以外は、台湾、中国、オーストラリア、ドイツ、コロンビアというインターナショナルな顔ぶれである。
アリゾナ州のアリゾナ大、アリゾナ州立大、北アリゾナ大の連合のTeam Desert Heat |
イリノイ工科大のチーム |
台湾の国立清華大のチーム |
ノースイースタン大のチーム |
オーストラリアの連合チームのPAWSEY |
ミュンヘン工科大のTeam TUMuch PHun (Too much fun?) |
中国の清華大のTeam Diablo |
コロンビアのEAFIT大のチーム |
オクラホマ大のチーム |
1つの大学の学生だけで6人のメンバーを出しているチームが多いが、オーストラリアのPawseyチームはオーストラリア西部のパースにあるいくつかの大学からのメンバーで構成されており、Arizona Tri-Universityのチームは、その名の通り、アリゾナ州の3つの大学の学生で構成されている。
Student Cluster Competitionでは何を競うのか?
SCCは2007年のSC07から開始されたが、その後、2012年からドイツで開催されるISCでも開催され, 2014年からはHPC Asiaでも実施されるようになっている。
SCCの応募ページでは、「何故、あなたのチームが優勝できると思うのか」という質問があり、高い技術を持つ強いチームを集めるという考えであるが、一方、これまで連続して出場したチームの優先度を落とすという考えも書かれており、昨年優勝で常連のテキサス大や、連続出場のパデュー大が今年は消えているのは、このためと思われる。
競技で目指すのは、課題として指定された科学技術計算アプリケーションを実行することである。しかし、単なる実行だけでなく、審査員によるインタビューがあり、システムのアーキテクチャやアプリケーションに対する理解などを質問され、それに対する受け答えなども評価の対象になる。
課題であるが、Top500のランキングに使われるHPLと、事前に公表される(SCC15の場合は4つの)課題アプリケーション、そして、競技の開始時に発表されるぶっつけ本番のミステリーアプリケーションを自分のところのクラスタで実行することが求められる。正しく実行できることが必須であるが、性能によって得点は変わってくる。これにインタビューの得点や、チームの説明ポスターの評価などが加わる。実行とインタビューなどとの配点は同じ程度と言われ、単に高い性能で実行することが出来れば良いという競技ではなく、メンバーのHPCクラスタシステムの理解、科学技術計算アプリケーションへの理解の度合いが実行性能と同程度の重みを持って評価される。
この得点が一番高いチームが総合優勝であるが、それに加えてHPLだけはTop500と同じように、最高性能賞がある。競技時間は48時間であり、各チームは徹夜で作業をするが、交代で仮眠を取ったり、テクニカルセッションに出たりするなどして、1人のメンバーは1日に12時間以上ブースに詰めて作業をしてはいけないことになっている。
課題アプリケーションはアプリケーションごとに担当者を決め、並行してチューニングを実行するなどの方法が取られる。