理化学研究所(理研)は11月30日、X線自由電子レーザー施設「SACLA」のX線レーザーを用いた連続フェムト秒結晶構造解析により、タンパク質が持つ硫黄原子を利用した「S-SAD法」でリゾチームタンパク質の結晶構造を決定することに成功したと発表した。
同成果は、理研 放射光科学総合研究センター SACLA利用技術開拓グループ 菅原道泰 特別研究員、岩田想 グループディレクター、XFEL研究開発部門 ビームライン研究開発グループ 矢橋牧名 グループディレクターと東京大学大学院理学系研究科 中根崇智 研究員、大阪大学 蛋白質研究所 蛋白質解析先端研究センター 鈴木守 准教授、高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 登野健介 チームリーダーらの研究グループによるもので、英科学誌「Acta Crystallographica Section D: Biological Crystallography」に掲載されるのに先立ち11月30日付けのオンライン版に掲載される。
大型放射光施設「SPring-8」の放射光を用いたタンパク質のX線結晶構造解析では、一般に約30μm以上のタンパク質結晶が必要だが、特に創薬などの研究用途で重要なヒトを含む動物由来のタンパク質は、結晶化に使用できる十分な量を得るのが難しく、析出する結晶も回折実験に適した十分なサイズに成長しない。また、回折実験ではタンパク質結晶が放射線損傷を受けることも大きな問題だった。
SACLAのX線レーザーを用いた連続フェムト秒結晶構造解析では、試料の放射線損傷が起こることなく、μmサイズかそれ以下のタンパク質微小結晶でも立体構造が決定できる。
また、一般にX線結晶構造解析では、タンパク質立体構造を決定する際に類似構造のタンパク質モデルを利用するが、類似構造がないタンパク質の場合は、水銀、白金などの重原子を結合させたタンパク質の結晶を用い、その重原子からの「異常分散効果」を利用して構造を決定する。最近では、タンパク質重原子化の手間を除くため、重原子の代わりにタンパク質の持つアミノ酸の硫黄原子を利用した単波長異常分散法「S-SAD法」が用いられている。
今回の研究では、同研究グループがこれまでに開発した、少量の試料でさまざまなタンパク質の回折実験が行える手法「グリースマトリックス法」を用い、SACLAのX線レーザーを利用した連続フェムト秒結晶構造解析で、S-SAD法によるリゾチームタンパク質の構造決定に成功。測定波長1.77Åで、サイズ約7~10μmのリゾチーム結晶から、回折分解能2.1Åの回折データを収集した。
今後は、結晶サイズ、放射線損傷の問題からこれまで構造決定が困難であったタンパク質でも、SACLAを利用したS-SAD法により構造決定が可能となる。また、創薬ターゲットとなるさまざまなタンパク質の構造解析への適用が期待できるという。