コカ・コーラシステムが10月6日より発売を開始した「い・ろ・は・す もも」。桃の生産量が全国1位をほこる山梨県のももエキスを使用し、ペットボトルのキャップを開けた瞬間から、"芳醇な桃の香り"を感じることができる商品となっている。

「商品開発の段階で、味について高い評価を得ることができました。しかし、"もも"というフレーバー自体は珍しくありません。だからこそ、販促施策ではいかに"登場感"を出すかが課題だと思いました。人々の話題にのぼり、手に取ってもらうための取っかかりを作る必要がありました」

こう話すのは日本コカ・コーラ マーケティング本部 ハイドレーションカテゴリー ウォーターチーム アシスタントマネジャー 銭高明氏。同氏によると、ウォータービジネス市場は近年、高い成長率を見せており、「い・ろ・は・す もも」のようなフレーバーウォーターも同様だという。

本稿では、銭高氏とマーケティング本部 IMC iマーケティング統括部長 豊浦洋祐氏のお二人が語る、「い・ろ・は・す もも」をヒット商品へと導くための舞台裏をお伝えしよう。

(左から)日本コカ・コーラ マーケティング本部 IMC iマーケティング統括部長 豊浦洋祐氏 / マーケティング本部 ハイドレーションカテゴリー ウォーターチーム アシスタントマネジャー 銭高明氏

プレティザーで始める"興味喚起"

―― い・ろ・は・す もものキャンペーンでは、Twitterを活用し「消費者に新商品を予想させる」施策を行いましたね。あの取り組みは新鮮でした

豊浦氏 : そうですね、ではまず、ソーシャルとい・ろ・は・すの関係性についてお話ししましょう。弊社は主要ブランドに関して、直近24時間でどんなツイートがされているかといった「ソーシャルリスニング」を毎日行っています。ツイートされる数や頻度は、ブランドによって大きな差があります。

その中でも、い・ろ・は・すというブランドは、コカ・コーラと並んでソーシャル上の登場率が高いブランドで、1日あたり3,000~4,000件ものツイートが確認されています。このように、もともとソーシャル上でウケの良いブランドですから、ユーザーの関心事に寄り添う形でコミュニケーションを仕掛けると、より話題にされやすくなるのではと仮説を立てました。

通常であれば、「新しいフレーバーが出ました」という紹介の仕方ですよね。しかし、それだけだと"登場感"は演出できません。「い・ろ・は・す ももという新商品が満を持して登場!」という見せ方をしたかったんです。そこで考えたのがティザーキャンペーンです。競合他社の施策を研究しつつ、弊社独自のチャレンジも含めて行ったのが、計4つのフェーズに及ぶ施策です。

1つめのフェーズは「ティザーのティザー」という目的で「プレティザー」と位置付けました。ツイッター社から紹介してもらった新しい広告メニュー「ポーリングカード」(投票機能のある広告枠 / 当時はβ版)を活用し、ぶどう・もも・なし・うめの4つの選択肢を設けて、Twitterユーザーに投票してもらいました。

同広告メニューを活用したキャンペーン展開は、日本企業としては初の取り組みです。"投票したユーザーのフォロワーにも、投稿を見てもらえる"という拡散性の高さにとても魅力を感じ採用しました。また、途中経過も発表できることから、話題を醸成するには最適で、約1万件もの投票数を獲得できました。

い・ろ・は・す公式Twitterに投稿された「新製品予想アンケートに関するツイート」

―― プレティザーという仕掛けはデジタルマーケティング領域において、真新しい手法といえるのでしょうか?

豊浦氏 : 現状ではレアな手法かもしれません。先ほどご紹介したポーリングカードを活用できる絶好の機会であり、そこでまず「投票を試してみよう」と想起しました。ちなみに、い・ろ・は・すブランドから新フレーバーが登場した際、ソーシャルでの注目度が高いなぁと実感したのは、春にい・ろ・は・す とまとを発売したときです。



そのときは発売前にい・ろ・は・すのTwitterアカウントから、「まさかのトマト味?」といった簡単なグラフィックとテキストを投稿したところ、一晩で4,000件近くもリツイートされました。弊社では常にソーシャルリスニングをしているので、どこまでが通常値で、どこからが異常値なのかを把握しています。リツイート数が1,000件を超えると異常値だと認識するので、今回の4,000件はとても驚きました。

い・ろ・は・す トマトのときは、決して意図的に仕掛けたわけではなく、何気なく投稿したという感覚に近かったです。そのため、い・ろ・は・す ももでは、もっと戦略的に話題を最大化できる施策にしようと決めました。そこで出てきたのがプレティザーという発想だったわけです。

1つの"ミス"が爆発的なリツイートを生んだ

―― その後Twitter上で「#ももも出ますいろはすから」のハッシュタグを付け、大々的に発表されましたね

豊浦氏 : そうですね、結果としてはこれが2つめのフェーズになりました。本当はプレスリリースで発表してから、い・ろ・は・すの公式Twitterアカウントで「正解はももでした!」とお伝えするつもりだったんです。しかし、ちょっとした手違いからリリース配信前にTwitterで告知してしまった。期せずして、他の誰も知らない情報を、Twitterユーザー限定で届けるかたちになったわけです。

結果的に、そのツイートは瞬く間にリツイートされ、その数は13.6万を記録しました。勝因はユーザーを驚かせるツイートの内容だけでなく、Twitterのプロモトレンド(Twitterで話題のトピックをタイムラインの横に表示する)という広告メニューを活用したことも関係しているでしょう。

プレティザーで上手く話題作りを行い、「ついに!?」というタイミングでニュースを広範囲にリーチできる広告メニューを使いながら世に送り出したことで、化学反応を起こすかのように爆発的な拡散が見られたのだと思います。

ちなみに弊社では、ソーシャル上における話題量を、KPIとして最も重要視しています。ティザーのタイミングで10万件以上の話題が醸成されていると、ある程度の認知獲得に成功していると仮説を持っていますが、このキャンペーンでは45日のティザー期間中、ソーシャルの話題量が16万件を超えました。目標としていた10万件という数字を大きく上回る成果が出たのです。

―― この段階で十分に"場"はあたたまったように感じますが、3つめのフェーズとは何だったのでしょう?

豊浦氏 : 3つめのフェーズでは事前にい・ろ・は・す ももをお楽しみいただけるような、ソーシャルサンプリング企画を走らせました。発売告知をしたのが8月25日で、そこから発売日となる10月6日までの1カ月、せっかく作り上げた"盛り上がり"をトーンダウンさせたくないという意図がありました。

また、サンプリングといっても、発売前の商品を届けるだけではつまらない。受け取ったら思わずツイートしたくなるような仕掛けとは何かと社内で議論を重ねました。そこで考えついたのが、新フレーバーのももを直球で伝えられる「ももの形をした特別なボックスに入れて発送する」ことでした。

その戦略が功を奏し、プレゼントした1,100名のうち、半数以上の方が写真に撮ってツイートしてくれました。この企画のおかげで、長いキャンペーン期間中の"中だるみ"を回避できたと思います。

い・ろ・は・す公式Twitterに投稿された「ソーシャルサンプリング企画の案内ツイート」

―― いよいよ4つめのフェーズは、最後の一押しといったところでしょうか?

豊浦氏 : 消費者の感情を丁寧に盛り上げてきた手応えはあったので、い・ろ・は・す ももを認知・期待していた人に対し、発売日当日にリマインドする形で、「#ももも出ましたいろはすから」のハッシュタグを付けて再度投稿しました。ツイートを目にした人はその足で店頭に買いにいく、といった導線を作ることができたと考えています。

点ではなく線のコミュニケーションを意識する

―― 極端な表現かもしれませんが、面白くない広告やコンテンツは見向きもされない時代です。そんな中、どうすれば彼らに対して、効果的なアプローチを仕掛けられるのでしょうか?

豊浦氏 : これだけ膨大な情報が氾濫する世の中で、企業が伝えたいメッセージだけを発信しても、受け入れてもらえるチャンスは減っています。"消費者が求めるもの"にきちんと寄り添いながら、最終的に伝えたいブランドメッセージをデジタルの力を使い、伝達していくべきでしょう。

デジタルだけではなく、テレビなどのマスメディアの活用も欠かせません。マスメディアは一度で広範囲にリーチさせることを得意としていますから。デジタルマーケティングとマスマーケティングを両方やることで、同じメッセージを異なるルートで届けることができると考えています。



情報を発信したあとの対応も肝心です。自分たちが発信した情報に対し、リアクションしてくれる人を多く見つけて、さらにそのボリュームを増やすことが大事なのかなと。弊社もソーシャルリスニングを行う中で、反応してくれる人を適切に把握しています。

彼らの中にいるエバンジェリストのような方は、自社にとって"資産"のようなもの。自分たちの味方につけて、同じ目線でコミュニケーションを図ると、デジタルマーケティングとマスマーケティングの相乗効果が生まれることを実感できます。

銭高氏 : ソーシャルが普及する前は「商品発売前に何か仕掛ける」といった発想は、少なかったと思います。店頭POPやテレビCMなどの施策がなされるのは、もちろん商品発売後。今まではそういうやり方が普通でした。消費者にとっては、新商品が"点"として突如出現する感覚なのではないでしょうか。

一方、ソーシャルを活用して、今回のようなティザーキャンペーンをする場合、消費者はブランドの"ストーリー"に入り込む感覚を楽しむことができます。商品が誕生する前から知っていて、少しずつ育っていくのを見守れるわけですから。

デジタルを用いることで、消費者に商品発売前の部分にもふれてもらい、一気通貫で商品を見つめてもらえる。たった一つの点ではなく、いくつもの点がつながって線になる ―― 消費者に自分事としてストーリーを楽しんでもらうかたちで、接点を作り続けていけたらと思っています。