IBMは11月18日、都内で「THINK Forum Japan」を開催した。同フォーラムではIBMコーポレーション会長・社長兼CEOのジニー・ロメッティ氏が「コグニティブ・ビジネス時代のリーダーシップ」と題し、人間のような学習能力や情報処理能力を備えたコグニティブ・システムにより専門知識を拡張し、その習得を加速化したりすることが可能なコグニティブ・コンピューティング「Watson」が切り拓く未来について講演したほか、パネルディスカッション、各種講演を行った。
ロメッティ氏は「我々は日本のCEOや役員など500人を対象にアンケート調査を実施し、約76%が将来的にデジタルコンバージェンスは業界に影響を与えると回答した。クラウドやアナリティクス、モバイルの3つはテクノロジーシフトとしてIT産業が変わるだけでなく、そのほかの業界においても変化が起こるだろう。テスラやUber、Airbnbなど新しいテクノロジーを活用した企業が生まれており、すべての事業や企業がデジタル化したらどうなるのだろうか。デジタル化というのはビジネスの基盤であり、目的地ではない。我々のビジネスでも顧客のデジタル化に取り組んでいるが、最も変革的なトレンドはコグニティブなテクノロジーを活用することだ」と強調した。
同氏はコグニティブ・ビジネスについて「デジタルビジネスにデジタルインテリジェンスを加えるとコグニティブビジネスができる。テクノロジー、ビジネスの時代としてコグニティブが到来している。現在、なぜ改めてテクノロジーの時代なのかについて3つの現象がある。まず1つ目は、かつて見えなかったデータが見えるようになっている。2つ目はコグニティブ・コンピューティングの導入があり、あるとあらゆるデータを理解・推論し、学習するシステムのことで『Watson』が恰好の例だ。3つ目はコードとクラウドの繋がりで、クラウドがプラットフォームとなり、そしてプログラマーがクラウド上でアプリケーション開発を行っている。これら3つの現象を踏まえると思考能力を製品・プロセスに織り込むことができる」と語った。
そして、コグニティブ・ビジネスの5つの特徴として「1点目はより深く人との関わりが可能となり、2つ目はワトソンにより知識が拡張できる。3つ目は、コグニティブ・ビジネスであれば自動車や医療機器、家電などに学習機能を有した製品・サービスの創出が可能となり、4つ目は企業のプロセスやオペレーションでも学習することができ、5つ目はどんなリサーチに対しても活用が可能だ。データで企業は変わり、その結果、コグニティブになっていく。日本企業は新たなライバルの出現により、新しい競争の在り方・基盤が必要となっている」と同氏は指摘した。
また、ロメッティ氏は「深い関わりを顧客・従業員と持つチャンスはあるか、データを活用する余地はないか。そしてエビデンスに基づかない意思決定の代償はなにかと考えることだ。多くの企業は意思決定がエビデンスベースではない状況の一方、選択肢が揃えばしっかりした意思決定ができるのではないか。研究、製品開発、カスタマーサービスなどのパターンを見出す余地は多々あるほか、労働力の高齢化への対応や社員のスキルアップを図りたいということはないだろうか」とコグニティブ・ビジネス時代への対応と新しいビジネス構築の方策として問題提起を促した。
そのためにコグニティブ・ビジネスがあると同氏はいい「プロジェクトの進捗を追跡するため、まずは最初に測定指標を策定する。その後、システムをプロトタイプ化した上でトレーニングし、現在のシステムと繋げる。もちろん業種や領域の知識を得ていなければならないが、コアなWatsonシステムを作り、業種ごとに構築している。例えばWatsonヘルスがあり、300億の画像解析ができる医療機器メーカーのソリューションを生み出しており、糖尿病の治療や膝関節の置換手術に役立てることが可能だ」と語る。
さらに「ヘルスケア以外にも、ワトソンでなければ可能ではないものを我々は提供している。そしてテクノロジーのシフトが始まると変革は必須であり、不可避だ。デジタル同様にコグニティブもいずれ普及していき、コグニティブなくして大量の情報に対応することは不可能になるだろう。ベストチョイス・チャンスはコグニティブであり、人類が直面する最も困難な課題に対応・支援するのもコグニティブだ。大胆な予測にはなるが、将来的に人類の重要な意思決定は、なんらかのコグニティブシステムに支えられ、競争の基盤も変化していくだろう」とWatsonの未来について同氏は胸を張った。