半導体市場予測会社の米IC Insightsは11月10日(米国時間)、2015年の世界半導体市場における売上高トップ20の予測を発表した。これは2015年の第1~3四半期の実績値に第4四半期の予測値を合計した"速報版"である。各社の10月時点での受注計画や生産計画から年末までの売り上げをかなり正確に予測できるため、例年、翌年春に発表されている"確定版"とはさほど数値のかい離や順位変動が生ずることなく予測できているものとなっている。

IC Insightsは、例年、売上高ランキングをドル基準で発表しているが、2015年は、ドルがユーロ、円、ウォン、台湾ドルすべてに対して13~4%高くなり(表1)、結果として米国以外の企業のドル建ての売上高が昨年より小さめに換算されてしまうことになる。例えば、日本企業が、円建てで昨年と同じ売上高だったとして、これをドル換算すると、今年の売り上げは、昨年より13%減少と言うことになってしまう。このため、今年は、昨年の換算レートを使って今年の売上高をドル換算した値(その場合の前年比成長率は、自国通貨建ての成長率に相当)も併記している。

図1 2014年および2015年売上高のドル換算に用いた為替レートと各通貨の為替レートの昨年比変化率(%) (出所:IC insights)

世界の半導体市場における半導体(集積回路だけではなく、OSDの略号で知られるオプトエレクトロニクス・センサ・ディスクリ―ト(個別半導体素子)を含む)売上高トップ20社のリストを図2に示す。

トップ20社には、米国に本社を置く企業が8社、日本、台湾、欧州が各3社、韓国が2社、シンガポールが1社という内訳となっている。また、このトップ20には、ファウンドリ専業3社(TSMC、GLOBALFOUNDRIES、UMC)ならびにファブレス5社を含まれたものとなっており、もしファウンドリ専業3社をリストから除外した場合は、それらの代わりに、18位にシャープ、19位にAMD、20位に中国のファブレスHiSilicon Technologyがそれぞれ入ってくる。

図2 2015年の世界半導体市場における売上高ランキング・トップ20(ファウンドリを含む:単位は100万ドル)。左より順に、2015年順位(予測)、2014年順位(確定)、企業名、本社所在国名、2014年半導体売上高(実績)、2015年半導体売上高(予測)、2015年/2014年比較(%)、2014年の為替レートで計算した2015年の売上高(予測)、2015年/2014年比較(%)。(注:*印付きの企業はファウンドリ、**印付きの企業はファブレス。(1)、Infineonの2015年の売り上げには、旧International Rectifierの売上分11億ドルを含む。(2)、GLOBALFOUNDRIESの2015年の売上高には、旧IBMの売上高7憶ドルを含む) (出所:IC insights)

ファウンドリを含むこのランキング表は、トップサプライヤ20社の売り上げ規模を示すリストであって、各社の世界市場におけるマーケットシェを示してはいない。なぜなら、ファウンドリの売り上げの多くが顧客であるファブレスやIDMの売り上げとダブルカウントされているからだ。Samsung Electronicsもファウンドリ事業を兼業しているが、こちらの主な顧客はAppleやその他の電子システムサプライヤであり、これらの顧客はSamsungに製造委託した半導体素子の再販売はしていないので、ダブルカウントはほとんど無視できるレベルだ。IC Insightsの顧客の多くは、 投資家のほか、半導体製造装置、ガス、薬液、純水、付帯設備メーカーであり、ファウンドリを含む半導体製造企業の売り上げに関心があるから、あえてファウンドリをリストに含めている。一方、他の市場調査会社のようにリストからファウンドリを除外してしまうと、ダブルカウントという問題は解決するが、今度は、ファウンドリへ直接製造委託している非半導体企業(例えば、自動車部品メーカーや精密機械メーカー)の売り上げがすべて消えてしまうことになる。

この表で注目すべき点は以下のとおりである。

  • トップ20社の2015年の売上高合計は、ドル基準では、昨年とほぼ同額で、成長率もほぼゼロである。全半導体企業の総売上高(IC Insightsより未公開)は、ドル基準では、昨年比-1%である。
  • 2014年のユーロ、円、ウォン、台湾ドル、中国元の対ドル換算レートを2015年にも適用して計算しなおすと(つまり各国通貨建てでは)、トップ20社の2015年の売上高合計は、昨年比4%増加する。なお、シンガポールAvago Technology、STMicroelectronics、NXP Semiconductorsは、売上高をドル基準で発表しているので、換算をしていない。
  • 最高の成長率を示したAvago(+23%)と最悪の下落率を示したルネサス(ドル換算では-22%、日本円基準では-11%)との間には45ポイントもの差がある。後述するが、トップ20の枠外へ転落するAMDはPC不振の影響で-28%。これらの大きく勝ち越した企業と大きく負け越した企業の総計で、結果として、昨年比成長率がゼロになっているわけで、成長率ゼロおよび近辺の企業は2社しかない。もはや自社業績を平均値と比較しても意味はない。
  • トップのIntelの売り上げはここ数年停滞している一方、Samsungの売り上げは大きく増加してきている。2014年、Intelの売り上げはSamsungより36%多かったが、2015年には21%にまで縮まるだろう。ウォン基準だとその差は11%しかない。IntelはいよいよSamsungの射程距離に入ってきた。
  • 2015年ランキング・トップ20に新規参入する企業は、台湾の専業ファウンドリUMCである。AMDと入れ替わる。AMDの売り上げは今年28%も下落し、およそ40億ドルと予測している。
  • 換算調整後に最高の成長率を示すのは、独Infineon Technologiesで、2015年はユーロベースでは実に39%も成長すると予測している。これは、今年1月に買収を完了した米国International Rectifier(IR)の売り上げを含むためだけではなく、旧IRの今年の売上分11億ドルを除いた旧Infineon分だけでもユーロベースでは20%もの高い成長を示しているためである。
  • 今年の本物のスタープレ―ヤーはソニーだ。日本円はドルに対して弱まったにもかかわらず、今年、ソニーの半導体ビジネスはドル基準でも11%成長するだろう。円基準では27%も成長する。同社はイメージセンサの販売で成功をおさめ、今年は前年比3倍以上の設備投資を実施中である。さらには、東芝大分工場の一部も買収し、勢力を着実に広げている。
  • 2016年AvagoによるBroadcom買収とNXPのFreescale買収が完了予定だが、これらの合併は、今後のランキングに大きなインパクトを与えるだろう。AvagoとBroadcomの2015年の売上高の合計(154億ドル)は、TI、東芝、Micronを抜き去り6位相当である。NXPとFreescaleの合計(102億ドル)は東芝を抜きさり、8位相当だ。今後数年に渡って続くことが予測される業界再編の合併・買収で、ランキングは大きく変動するだろう。企業買収により、東芝を追い抜く企業が次々現れてきている。NAND型フラッシュメモリ開発・製造パートナーSanDiskがWestern Digitalに売却されてしまった東芝の今後動きが注目される。かつてトップ10の過半を日本の半導体企業が占めていたが、いまや日本企業として唯一東芝が今後もトップ10に留まれるか否かの瀬戸際である。