電気通信大学(電通大)はこのほど、個性適応型筋電義手を開発し、完成用品部品登録に向けた臨床実験を開始すると発表した。

同成果は電通大、東名ブレース、国立成育医療研究センター、東海大学、横浜国立大学、メルティン MMIの共同研究によるもの。

筋電義手とは、前腕部などにセンサを配置し筋肉の信号をキャッチすることで動かす義手のこと。同研究グループが開発した個性適応型筋電義手は運動意図を識別するコントローラ(筋電制御ボード)、筋電センサ、ロボットハンド、ロボットハンドの外皮とおなるグローブ、電源システムの5モジュールで構成される。筋電センサを介してさまざまな手の動作を装着者の筋電を使って義手に教えることができるため「個性適応型」と呼ばれている。

横井教授らが開発した個性適応型筋電義手

外皮にあたるグローブを外した状態

この個性適応技術は、筋電信号と義手の運動の対応関係をパターンとして学習する情報理論の一種で、運動を種類ごとに分類することで手指動作の誤識別を少なくしている。また、パターンのクラスタを最小化し、複数の手指動作を識別する機能を有しており、手指の動作をリアルタイムで教えることが可能だ。同研究グループの中心となった電気通信大学の横井浩史 教授は「従来の筋電義手は訓練に2カ月必要だが、この技術を使うと1~2分で動かすことができるようになる。」と同技術のメリットを語る。

筋電信号を義手に学習させている様子。このケースでは、筋電信号をスマートフォンに送信して処理している。なお、デモンストレーションのためセンサ部が義手から出ているが、実際は義手の装着部分にセンサが組み込まれる。

ハード面では、3Dスキャナや3Dプリンタを用いることで、手指のサイズにフィットしたロボットハンドが作製可能。また、タナックとの共同研究で開発したグローブは、小さいものを安定的に把持できるように指腹部の厚みを他の部分と変えるなどの工夫がなされているほか、さまざまな手の形に対応できるように非常に伸縮性の高い素材が使用されている。

グローブが非常に伸縮性の高い素材で作られていることがわかる

今のところ、親指以外の4指を動かすためのモーターと、親指を動かすためのモーターを搭載しているが、今後は必要性が高いと考えられる箇所にモーターを追加し、より動きの自由度を高めることを検討していくとする。その一方で、重量が大人用で5-600g、乳幼児用で300g程度あり、軽量化が非常に重要なポイントとして捉えられている。今後、モーターの追加と軽量化という矛盾した課題の解決に向けた研究開発が期待される。

電気通信大学の横井浩史 教授

現在、筋電義手は国内ではドイツ製のものが流通しているが、価格が数百万円と非常に高価だ。同研究グループの筋電義手はコスト面でも優れており、横井教授は「1000台程度の台数が出れば15-18万円で販売できる」とする。同研究は今後、国立生育医療研究センターと東海大学医学部での臨床実験へと進む。具体的な実験期間は定められていないが、来年度中の補装具登録を目指しているため、なるべく早くスタートさせたい考えだ。

臨床実験への参加を希望する場合の問い合わせ先は以下の通り。

問い合わせ先:国立大学法人電気通信大学 大学院情報理工学研究科知能機械工学専攻/ 脳科学ライフサポート研究センター センター長・教授 横井 浩史
TEL:042-443-5403
E-mail:yk-sec@hi.mce.uec.ac.jp