北欧ヴィンテージ商品を取り扱うECサイトとして、2007年9月に誕生した「北欧、暮らしの道具店」。眺めていて心地良い写真とテキストが並ぶ、雑誌のようなスタイルが特徴的だ。商品情報以外にも、読み応えのあるコンテンツを1日5~6本配信する。サイト訪問数は約2年で7倍に増加し、今やECサイトの枠を超えたライフスタイルメディアといっても過言ではない。

そしてついには、2015年7月、記事広告コンテンツ「BRAND NOTE」の提供を開始。第一弾として良品計画とコラボレーションし、計9本のオリジナルコンテンツを配信した。一体なぜ、ECサイトが広告事業をスタートさせたのか ―― 本稿では、クラシコム代表取締役の青木耕平氏へのインタビューをお届けしよう。

クラシコム 代表取締役 青木耕平氏

広告費をゼロに近づけて、売上を上げる

青木氏 : 一般的にECサイトには「月商1000万円を達成したらすごい」といった"大台"みたいなものがあります。北欧、暮らしの道具店は2011年に月商1000万円、年間1億2000万円に到達しました。それでも、好調と言える状況ではなかったんです。

2009~2010年は一気に投資を行い、ビジネスを拡大していこうという時期でした。当然売上は伸びていましたが、そのぶん広告費がかさみ、十分な利益が出ているとは言えなくて……。小売業は売掛金と在庫を抱えて売上を伸ばすビジネスモデルのため、どうしても資金が必要になります。つまり「売上が増える=借り入れが増える」ということ。そのモデルで急成長したとしても、良くてトントンで、どの時点で利益が出るかわからない状態でした。

売上が伸びても今のままでは幸せにはなれない。ダメならやめたいし、やめるなら今の時期だと真剣に考えたこともあります。売上5億円、借り入れ1億円くらいになると、もう後戻りはできませんから。意思決定の最後のタイミングが、2010年後半のタイミングだったのです。

損益計算書の中で15%程度と大きな割合を占めたのが、年間2000万円以上かけていた広告費です。これを1~2%に縮小できれば、税引前2%ほどだった利益が10%以上増えて、健全な利益を生み出せるようになる、と計算しました。でも、広告費を抑えたら単純に成長スピードは鈍化するだろうなとも思いました。

僕たちが理想としたのは、広告費を限りなくゼロにしつつ、事業の成長スピードを維持あるいは今まで以上に速めること。当時としては、子どもの夢物語レベルの話ですよね(笑)。でも、2000万円のお金を広告以外のものに投資すれば、もっと面白いことはできるだろうと思いました。また、そんなにお金を使っているのに、ほどほどの結果しか出ていないのは変だし、もっと革命的なことができるはずだ、と気づいたのです。そこでたどり着いたの「読み物コンテンツの展開」です。

「北欧、暮らしの道具店」サイトイメージ

――― どのように準備を進めていったのですか?

編集方針やコンセプトはもちろんですが、サイトのシステム開発や採用方針など"裏側"を一つひとつ整えていきました。とくにシステム開発にはかなり投資しました。コンテンツを制作する人や時間を捻出し、生産性をこれまでの倍にする必要があるので、人が介入しなくて良い業務に関しては徹底して自動化しました。

採用に関しては、以前までは「販売が上手なお店向きの人」を求めていたのを、「人を楽しませるのが上手なメディア向きの人」に変更。そのため採用段階で、全職種にスタイリングや撮影、ライティングのテストを課し、コンテンツ制作のセンスが一定以上あって、美意識や価値観が僕たちとフィットするかどうかを基準に、人を採用するようになりました。

読者を想像していないコンテンツは読まれない

――― コンテンツ展開の開始当時、大変だったことはありましたか?

今できることの棚卸しをして、できることをやりきろう、というのが僕たちの発想です。新たな挑戦をするときに、あれもこれもと自分たちの身の丈に合わない難しいことをやると、苦労するに決まっています。

音楽で説明するとわかりやすいと思いますが、素人が楽しめる音楽の演奏は、難しいテクニックを使うことではなく、シンプルな演奏を確実にやることです。できる技術をアレンジして演奏するほうが、上手に聴こえるのです。コンテンツ制作もそれとまったく同じだと考えています。

たとえば「スタッフの日記が面白い」と読者に言ってもらえたら、毎日コツコツと続けてみる。すると、売上や利益が増え、コンテンツに投資できるお金や時間が増えていくわけです。結果、知見やノウハウがたまり、より良いコンテンツを無理せず作れるようになります。

――― コンテンツの中身については、どのようなことを意識していましたか?

そもそも、コンテンツを作る上で最初に考えたのは、北欧、暮らしの道具店と雑誌など既存メディアとの違いでした。でも、あまり差はないなと。掲載しているものが違うだけで、テキストと写真で構成され、ものの情報を束ねていること自体は、僕たちも雑誌も同じです。

だから、ものの見方や優先順位を変えるだけで良かったのです。僕たちは自分たちのECサイトを「カートボタンのついた雑誌」と定義しています。ECサイトはネットショップと表現されることもありますが、本当はショップではなくて、システムとデータベースがある箱。そこにあるのは機能です。定義の仕方を変えるだけで、買い物できる機能を持った"何か"になれます。

スタッフにはずっと「読み手として読みたいことを書こう」と言い続けてきました。それは「自分の書きたいことを書く」でも「みんなが読みたそうだなと思って書く」でもありません。自分というごく普通なひとりの人間が「読みたい」と思えば、世界に最低ひとりはそのコンテンツを読みたい人間がいるわけですから、必ずマーケットはあります。